第33話 突然の訪問

文字数 2,187文字

 山での修行は続き、季節は冬になり、やがて春を迎えた。
山での修行も一年近くになったある日のことである。

 ユリの父である公一郎(こういちろう)と、母の喜美(きみ)が突然山小屋へ訪れた。
早朝のことである。

 「翼くん、山での修行、ご苦労であった。」
 「よく頑張ったわね、翼くん。」

 ユリの両親にそう告げられ、翼はポカンとした。
まだ修行中の身であるのに、よく頑張ったとか、ご苦労であったとか言われたからだ。
だが、(ねぎら)ってくれている事は分かる。
翼はお礼を言った。

 「ありがとう御座います。
ユリさんが一緒にいてくれたおかげで修行を続けることができました。」

 「そ、そうか・・。」

 公一郎はユリのおかげという言葉に眉間(みけん)にすこし(しわ)がよる。
翼は首を(かし)げた。

 「あ、あのお父さん、何か?・・・。」
 「まぁ、なんだ・・、その、だな・・・。」
 「?」
 「結婚前の娘と一年近く、二人だけで生活したわけだ。」
 「はい、しましたけど?」
 「()()では無い!!」
 「へ?」

 「ユリには何もしなかったのだろうな!」
 「え、ええ・・、しておりませんが・・。」
 「(あや)しい・・。」
 「へ?」
 「本当にしてないのだな?」
 「はい、指一本ふれておりません。」
 「そうか?・・、うむ、そうならよい。そうかそうか、うむうむ。」

 公一郎が安心した様子に、翼はホッとした。
だが、その直後、公一郎はハッとし翼を(いぶか)しげに見た。

 「まてよ・・・、指一本さえ触れておらんのか?」
 「はい。」

 「まさか!・・・、翼くん、男にしか興味が無いのか!」
 「な、何を言っているんですか! 男に興味なんかありません!」
 「そうか?」
 「はい!」
 「う~む・・・。」
 「?」

 「なら聞くが、ユリは美人だぞ?」
 「はい、その通りです!」

 「つ、翼くん・・び、美人だなんて・・。」

 ユリは翼の言葉に顔を真っ赤にする。

 「ユリは(だま)っていなさい!」
 「え? あ、・・はぃ、お父様・・。」

 「よいか翼くん、娘の、美人のユリに何故、手をださん?」
 「え? 手を出してよかったんですか?・・。」
 「バカ言うんじゃに! ダメに決まっておるだろうが! そんな事をしたらただではすまさん!」

 「はぁ・・、えっと、では、どうしろと?」
 「だから手を出したら、ただではすまさん! そう言っているのだ!」
 「それは・・、わかりましたけど?・・・。」

 「それでだ、なんでユリに手を出さんのだ? 君も男だろう?」
 「そりゃあ、僕だって男です。ユリさんと、したかったですよ・・。」

 「まさか、したのか!」
 「してません!」
 「ならよし。」
 「良しって・・・、はぁ・・、なに、これ・・。」

 黙ってきいていた喜美が、我慢の限界となったのか公一郎を一喝(いっかつ)した。

 「あなた、いい加減になさいませ!」
 「え!?・・、あ、ああ・・。」
 「翼くんはノーマルです。ね、翼くん、ユリとしたかったのでしょ?」
 「はい! それは毎日毎日四六時中、思っていました!」

 「ま、毎日・・、あう、うううう。」

 ユリが翼の答えに顔を真っ赤にして(うつむ)き、ボソリと(つぶや)く。

 「私に興味がないわけではなかったのね・・、私の体って魅力がないのかと思ってた・・。」
 「え? 何? ユリさん?」

 ユリの呟きはあまりに小さく、聞き取れなかった翼は聞き返した。

 「な、なんでもないわ、翼くん。」

 「あらあら、なんでもないわけないじゃない?」
 「お母様は黙っていて!」

 「あらまぁ、()ずかしがることないじゃないわよ、ユリ。
いずれ結婚すればすることになるのだし、ね、翼くん?」

 「へ?! け、け、けっけっけつ、けつ!」
 「けつ? お尻でも痛いの、翼くん?」

 喜美は首を傾げた。

 「けっ、けつ、けっ、結婚してすることって! あの、そ、それって・・。」
 「子供を作ることにきまっているじゃないの、やだわ、翼くん、知らないの?」
 「し、知ってます!」
 「あら、よかった、知らなければ教えないといけないでしょ、ねえ、あなた?」

 「そんな事、許さん! 翼くん、絶対にだ!」
 「は、はい!」

 「あなた! いい加減になさい! ユリと翼くんを結婚させないつもりですか!!」

 「あ! いや、そ、そういうつもりでは・・・。」
 「じゃあ、どいうおつもり?!」
 「す、すまん!」
 「謝ってすめば、警察は要りません!」
 「うっ!・・・。」

 たじたじとなる公一郎であった。
翼は、ため息を一つ吐いた。
そして・・。

 「あの・・、それでお二人は今日はどうしてこちらに?
今日は、お母さんからの手ほどきを受ける日ではなかったと思うのですが・・。」

 「ああ、ごめんなさいね、公一郎さんがいると話しが進まなくなるの。
最近はとくにユリのことが心配でね。
翼くんとつきあう前は、だれかいい人ができないかと心配していたのにね~。
いざ翼くんという恋人ができたら、今度は嫁にやりたくないみたいで。
本当に子供みたいでしょ?」

 「はぁ・・、それで、どうしてお二人で来られたのでしょうか?」

 「うむ、それはだな・・。」

 「少し黙っていて下さいな、公一郎さん。
あなたが話すと話しがすすみません!」

 「はい・・。」

 翼は尻に敷かれる公一郎を見て、同情の眼差しを向けた。
その眼差しを受け、公一郎はため息をついた。

 そのため息は、翼に人ごとだと思っているが、将来の君だよ、という意味合いだったのだが・・。
翼にはそれを知る(よし)も無かった。
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