第5話 デート開始!
文字数 2,869文字
1時間以上前に着く予定が大幅にずれたのである。
待合場所に1時間以上前に着くようにするなど気合いの入れすぎであるように思える。
しかし翼にとっては生まれて初めてのデートであるため余裕を取った結果なのである。
ちなみに同性との待ち合わせでは、このような事はない。
せいぜい5分くらい前に待ち合わせ場所に着けばよい程度である。
つまり、翼はデートだから気合いが入ったのである。
そう、相手が女性だからである。
男同士ではデートとは言わない。
デートとは異性、つまり女性と行う特別な行為なのである。
(翼にとっては、である。相手がどう考えているかは置いておこう。
それに世間には色々な人たちがいるのも確かである。)
駅ビル内の三階にある広場がデートの待ち合わせ場所であるため、翼はエスカレータに乗る。
三階に近づくと待ち合わせの広場が見えてきた。
するとそこにはデートの相手である
翼より先にユリが気付き、笑顔で周りからあまり目立たないように腰のあたりに持ち上げた手を小さく振る。
翼はユリを待たせたことに罪悪感を感じた。
3階まであと数段というエスカレータを駆け上がり、ユリへと早歩きで向かいながらユリに手を振って答えようとした時である・・。
コケた・・・。
急ぐあまり足を
周りにいた人達が、そんな翼を見てクスクスと笑う。
ユリは慌てて翼の側へ
そして翼に手をさしのべたのである。
「だ、大丈夫ですか!」
立ち上がろうと四つん這いになっていた翼は、あわてて返事をする。
「だ、だ、大丈夫れしゅ!」
・・・・舌を噛んだ。
落ち着け、翼・・・。
ユリは手をさらに差し伸べた。
それを翼はポカンと見たあとで、魅入られたようにユリの手を
ユリはゆっくりと翼を引き上げる。
翼もそれにつられて、ゆっくりと立ち上がった。
すると周りから拍手がわき起こった。
「 「え?!」 」
思わず二人して周りを見ると、周りの人達が暖かい眼差しを二人に向けて拍手していたのである。
おそらく・・
二人を暖かく見守ってあげたい心境になってしまったようである。
さらに言うなら普通は男がすべきことを、逆に女性が行ったのだ。
倒れた翼に綺麗な女性が手を差し伸べて立ち上がらせるという・・・。
お嬢様、お手をどうぞ。
ではなく・・
お坊ちゃま、お手をどうぞ。 テヘ!ありがとう!ワン!
で、ある・・・、ワンは余計であるがシッポが有れば振っていそうな翼である。
二人はペコリと周りに頭をさげ、慌ててその場を立ち去る。
周りにいた人達も二人を見送ると、何事もなかったかのようにその場を思い思いの方向に立ち去っていった。
ユリは歩きながら心配そうに声をかけた。
「翼さん、どこか
「だ、大丈夫れす!」
またしても舌を噛む。
しばらく二人は無言で駅ビル内を歩いた。
翼にしてみれば恥ずかしいところを見られたのである。
ユリにしてみれば、顔を真っ赤にしている翼が先ほどコケタことを気にしているのが分かり話しかけてよいかどうかわからなかった。
少し
「すこし店を見て歩きませんか?
入るんじゃなくて、その・・、ウィンドーショッピングでも、どうかしら?」
「え?! あ、うん、そうしようか・・。」
そして翼は女性をただ歩かせていることに気が付いた。
「あの!」
「はい・・?」
「食事にしましょう!」
いやいやいや、会ってさほど時間が
デートだぞ?
デートプランはどうした?
今日のため携帯で色々とググっていたのではないのか?
たとえ頭が真っ白になり計画を忘れたとしてもだ・・。
普通はスタバなどでお茶をするか、映画でも見ませんかとか、導入部という物があるだろう?
それでリラックスして程良い時間にディナーというのが健全なる男女交際ではなかろうか?
(筆者の偏見かもしれませんが・・。)
だが、女性とつきあったことがない翼は何も考えられず、頭に浮かんだことを口に出したのである。
するとユリは
「あら? 私ってそんなに食いしんぼに見えますか?」
そう言ってユリはクスクスと笑った。
か、可愛い!!
翼はユリの笑顔に見とれ押し
ユリはというと・・
何も言わずにただ顔をじっと見つめられ、恥ずかしくなり顔を赤く
「あ、あの・・翼さん?」
その言葉に翼はハッとして、自分が
「え? あぅ! おぁあああああ~!!」
「?!」
「す、
「か、可愛い?!」
「はい! すっごく可愛かったです!」
「!」
ユリは
恥ずかしいやら
だが、翼は突然にユリが
え?! え? な、何?!
お、俺、なんかしでかした!
な、何をした俺!!
わ、分からない! 何をしたんだ俺はぁ!
バカ、馬鹿、ばか~ぁ~~~!!!
ど、どうしよう!
どうすればいい?!!!
どうすれば、いいんだよぉ~!!
パニックになり内心で絶叫する翼であった。
翼は両手を胸元まで上げ、手のひらをバタバタと横に振る。
いえ、その、あの! のポーズである。
見事にそれを決め、誰から見てもパニック状態である事がわかる翼であった。
翼は声を振り
「あ・・あの、その、ゆ、ユリしゃん!」
また舌を噛んだ・・。
ユリはゆっくりと顔を上げた。
耳まで真っ赤である。
「あ、あの! 僕、何かユリさんの
「え?」
翼の言う意味が理解できず、ユリはキョトンとする。
翼はユリのキョトンとした顔に、首をコテンと
ユリは翼のその様子を見て、不思議そうに答える。
「機嫌?・・・ですか?」
「はい・・、ユリさんの機嫌を害するような事を・・。」
「・・・?」
「・・・・・?」
「いえ・・、そのような事はありませんよ?」
「よ、よかった~!!!」
そう言って翼はホッとして、あたふたと手を振っていたのをやめ胸をなでおろした。
クスッ!
ユリは思わず笑った。
「おかしな翼さん!」
「へ?」
「ふふふふふ。」
機嫌良さそうに、楽しそうに笑うユリに、翼はホッとすると同時にまた
そう、ユリの笑顔の破壊力はすざましかったのである。
ただでさえ女性に対する
それなのに美人に笑顔を向けられたのである。
真っ赤になりながら、ユリを見続ける翼であった。