(二・五)歩きスマホ
文字数 1,135文字
●もう許されないクローン人間への差別記事(二〇七九年十二月記事)
『先月、クロクロ文明なる雑誌に於いて、以下の記事が掲載され問題となった。
『クローン人間の特徴について』
いつの頃よりかは定かでないが、街角で不思議な或る光景を、誰もが目にするようになったのではないか?その光景とは、スマートホン(以下、略してスマホ)の画面をじっと見つめながら歩く人々の姿である。所謂歩きスマホ。ただし単なる歩きスマホならば、時を遡ること二〇一〇年代には既に、世界中で見られる現象であった。では何を今更わざわざこんな話を持ち出したかと言えば、それは他でもない。或る人々にとっては、単なる歩きスマホでは済まされない重要な問題だからである。
通常我々は、スマホの画面上に映し出された文字や画像、映像を見るという単純な作業の為に、スマホをじっと見つめている。しかし『スマホを見つめる』というその行為自体が、或る人々にとっては生死に関わる重要な必須行為となるのである。時間が許す限り、絶えずそうしていなければ生きてゆけない、自らの生存を保てない。そういう人間たちが実際、この世の中には存在しているのである。
どういうことか?簡単に説明しよう。その彼、彼女らは、スマホの画面を見ることによって、スマホの画面から供給されるエネルギーを吸収しているのである。言わば生命の充電をしているようなものである。
では如何なるエネルギーであるか?それは心臓を動かすエネルギーなのである。心臓の鼓動を持続させるエネルギー。なぜなら彼、彼女らの心臓は、何もせず放っておくと止まってしまうからである。心臓の鼓動が停止してしまうのである。そしてそんな彼、彼女らのことを、我々は『クローン人間』と呼んでいる。
しかしながら前述の如く歩きスマホ自体は、クローン人間が誕生する以前から見られた。現在も同様である。我々人類の多くもまた、歩きスマホをする。従って歩きスマホという行為だけでは、我々人類とクローン人間とを区別することは、安易には出来ないのである。
……以下、省略。(雑誌、クロクロ文明二〇七九年十二月号より、原文のまま)
如何であろうか。なるほどクローン人間がまだまだ未知なる存在であった昔であれば、こんな記事も許されたかも知れない。しかし二〇八〇年を迎えようとする今日に於いて、このようなクローン人間に対する侮辱的かつ差別的で偏見に満ちた言論は最早、到底許されるものではない。
早速この雑誌は、日本はもとより国際世論の猛烈な批判を浴びた。そして遂に廃刊へと追い込まれ、出版元のクロクロ文明社は緊急記者会見を開いて謝罪するに至った。我々もジャーナリストの一員である以上、これを他山の石として大いに心したいものである。』
『先月、クロクロ文明なる雑誌に於いて、以下の記事が掲載され問題となった。
『クローン人間の特徴について』
いつの頃よりかは定かでないが、街角で不思議な或る光景を、誰もが目にするようになったのではないか?その光景とは、スマートホン(以下、略してスマホ)の画面をじっと見つめながら歩く人々の姿である。所謂歩きスマホ。ただし単なる歩きスマホならば、時を遡ること二〇一〇年代には既に、世界中で見られる現象であった。では何を今更わざわざこんな話を持ち出したかと言えば、それは他でもない。或る人々にとっては、単なる歩きスマホでは済まされない重要な問題だからである。
通常我々は、スマホの画面上に映し出された文字や画像、映像を見るという単純な作業の為に、スマホをじっと見つめている。しかし『スマホを見つめる』というその行為自体が、或る人々にとっては生死に関わる重要な必須行為となるのである。時間が許す限り、絶えずそうしていなければ生きてゆけない、自らの生存を保てない。そういう人間たちが実際、この世の中には存在しているのである。
どういうことか?簡単に説明しよう。その彼、彼女らは、スマホの画面を見ることによって、スマホの画面から供給されるエネルギーを吸収しているのである。言わば生命の充電をしているようなものである。
では如何なるエネルギーであるか?それは心臓を動かすエネルギーなのである。心臓の鼓動を持続させるエネルギー。なぜなら彼、彼女らの心臓は、何もせず放っておくと止まってしまうからである。心臓の鼓動が停止してしまうのである。そしてそんな彼、彼女らのことを、我々は『クローン人間』と呼んでいる。
しかしながら前述の如く歩きスマホ自体は、クローン人間が誕生する以前から見られた。現在も同様である。我々人類の多くもまた、歩きスマホをする。従って歩きスマホという行為だけでは、我々人類とクローン人間とを区別することは、安易には出来ないのである。
……以下、省略。(雑誌、クロクロ文明二〇七九年十二月号より、原文のまま)
如何であろうか。なるほどクローン人間がまだまだ未知なる存在であった昔であれば、こんな記事も許されたかも知れない。しかし二〇八〇年を迎えようとする今日に於いて、このようなクローン人間に対する侮辱的かつ差別的で偏見に満ちた言論は最早、到底許されるものではない。
早速この雑誌は、日本はもとより国際世論の猛烈な批判を浴びた。そして遂に廃刊へと追い込まれ、出版元のクロクロ文明社は緊急記者会見を開いて謝罪するに至った。我々もジャーナリストの一員である以上、これを他山の石として大いに心したいものである。』
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