(一)-2

文字数 269文字

 そんなことが頭の中をよぎったが、実際には違った。
 高齢の男性が「お話を伺えませんか」とジャケットの内ポケットから黒い手帳を見せてきた。二つ折りの手帳が上下に開き、金色のエンブレムが見えた。エンブレムには「警視庁」とあった。
 怪しい二人組だが、確かに二人組としては、それらしい二人組といえなくもなかった。
「原冬真(とうま)さんという方をご存じですか」
 年配の刑事がそう言った。
 原冬真……。その名前は忘れていた。というか、忘れようとしていた。とはいえ、その名前については聞き覚えがあった。聞き覚えがあるだけではない。よく知っている名だった。

(続く)
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