(四)(了)

文字数 405文字

 事情聴取から約一週間経った金曜日、私は入谷先輩にプロポーズの返事をした。答えはもちろん「イエス」だと。
 その日の夜、新しい彼と一緒にソファに座りテレビで経済ニュース番組を見ていた。そこで、元彼であるあの男の逮捕のニュースが流れた。犯行の動機などはこれからの取り調べて明らかにしていくとのことであった。
「酷いことをするやつがいるんだな」
 彼はドライ系の銀色のパッケージの缶ビールをグラスに注ぎながら言った。
 私は、横に座る正司さんの肩に頭を乗せた。正司さんはあの男のことを知らない。私とあの男のことも知らない。
 正司さんは左手でビールを飲みながら、私の体を自分の方に引き寄せた。
 正司さんの体温が感じられた。
「明日、婚姻届を出しに行こう」
 彼が私のおでこにキスしながら言った。
「俺もいつ通り魔に刺されるかわからないからな」
 私は「そうだね」とだけ答えた。

 その後、新宿の事件に関する警察からの連絡はない。

(了)
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