日常

文字数 1,238文字

良質な睡眠、良質な食事、つまり健康的な生活は脳を活性化させるとはどうやら本当のことのようで。

あれから三日間、わたしは順調に原稿を書くことが出来ていた。
脳が変わったわけじゃないから、斬新なアイデアが出たり速筆になったりはしないが。それでも今までに比べたら順調だと自分で言えるほどには順調だった。

「姉さん、一旦お茶でも飲んだら?」

なにより弟くんの存在が大きい。
適度に激励してくれて、いい頃合いに休憩を提案してくれて、終わったら褒めてくれる。全創作家には弟くんみたいな存在が必要だと思う。
わたしの弟くんは誰にも渡さないけど。

「美味しい?」
「美味しいよ、ありがとう」
「どういたしまして」

だってこんなに天使なのだから。
いやまあ、二日前に仕事サボってSNS見てたら「姉さん、仕事は?」って優しい口調なのに恐ろしく冷たい目で見られたんだけど。

とにかく、弟くんのお陰で仕事は順調。毎日三食用意してくれて、余裕ができたら遊び相手にもなってくれて、部屋もゴミ出しや掃除・整理整頓してくれてずいぶん綺麗になった。部屋は流石に手伝ったけど。
そんな感じに私生活も充実していた。

「……」

だからといってわたし達は四六時中会話しているわけじゃない。ネットラジオを流しているから無音ではないけど、それぞれやりたいことをやっている。
それが居心地悪いって話ではなくて、むしろ居心地良いとさえ思うのだが、ふと気になったのは弟くんが読んでいる本。

弟くんは基本的にわたしの相手をしてくれる。でもわたしが仕事をしている時や、今みたいな時間はずっと本を読んでいるのだ。ブックカバーをしているから何の本なのかは分からないけど。
それが少し気になって、直接聞いてみることにした。隠すようなら別に暴く気もないし、軽い気持ちで。

「ねえ、弟くんがいつも読んでる本って何なのか聞いても良い?」
「ん、これ?姉さんが書いた本だよ」
「えっ」

それはちょっと話が違うかな!?

「え、え、え、なんで」
「なんでって、面白いから」
「いやそれは嬉しいけど恥ずかしいというかなんというか」
「でもこれ市販されてるやつだよ」

それはそうなんだけど目の前で読まれるのは違うというか、身内に読まれるのも違うというかですね。

「ふふふ」
「な、なんで笑うの!?」
「姉さんの話、好きだよ。こういうお話を書ける姉さんだから、俺が生まれたんだろうね」

……?なんか今、弟くんがサラッと凄いことを口に出した気がする。
それってどういう──。

『♪♪♪』
「あ、お風呂沸いたよ。先に入っていいよ、姉さん」
「あ、うん」

そこで話は打ち切られる。
だけど続きが聞きたくて、ちょっとだけ粘ってみる。

「ね、久々に一緒にお風呂入らない?」
「流石に狭くない?大丈夫、一番風呂とか気にしなくていいよ」
「んー、わたしも別にそこは気にしてないけど」
「じゃあさ、今度どこか家族風呂とかに行こうよ」
「……!約束だよ!」
「うん、約束」

しまった、嬉しくてつい会話を終えてしまった。

……あれは一体、どういう意味だったんだろう。
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