「お姉ちゃん」
文字数 1,749文字
あー無理だ。もう無理、書けない、絶対無理だ本当に無理だ。
だって無理なんだから。自分のことは自分がよく分かっている、わたしはもう何も知らない子どもじゃない。
わたしはいつもこうだ。どんなに書き始めは調子が良くても、綺麗に幕を閉じることが出来ない。話を広げるだけ広げて、上手くまとめることが出来ない。
子どもの頃から成長していない。妄想の世界を広げて、とっ散らかして、何のオチもない話をずっと続けることばかりして。わたしはもう、これを仕事にしてご飯を食べているというのに。
「姉さん」
「今はそっとしておいて……」
「……」
あたまをそっと撫でられた。弟くんは本当に優しい。
「大丈夫だよ」
「うわっひぃ!?」
「いだぁっ!」
「あ、ごめん!」
耳元で話しかけられて、ビックリして飛び上がってしまった。わたしの後頭部が弟くんの鼻に直撃する。
うわあシリアスな空気が台無しだあ。
「大丈夫!?血は出てないね、ごめんね!」
「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言いながら弟くんはわたしのあたまを撫でる。え、この状況でさっきの話の続きしちゃう?
「姉さんなら大丈夫。だって、子どもの頃からずっと想像の世界を育んできた。俺との生活を続けてくれた」
「でも、お金を取っていいお話にならないようなものばかりだよ」
「そうなのかもしれないね。そればかりは姉さんの中にあるものだから、俺には分からないけど」
「昔書いたお話の続きも、今は書けないんだよ」
「それは嘘だね。だって昨日まではパソコンに向き合って書いていたじゃないか」
「……」
「自分の想像の世界を見つめるんだ。大人になって無意識のうちにアレはダメ、コレはダメだって捨てていったものさえも、もう一度見直して」
「……出来るかな」
「出来るよ、なんだって出来る」
「だって俺は仕事をしてとは言ったけど、お話の内容に口出しはしてない。だけど姉さんは書き続けられたんだから」
……。
そうだ、分かっていたことじゃないか。
わたしは作家だ、だからこそ沢山のお話を読んできた。いや、作家になる前だって。
そして目の前に居るのは、わたしの頭の中から飛び出した弟くん。それこそ、創作のお話のような存在。
そういった存在の役目は、主人公を変えること。だけどその存在そのものが主人公を大きく変えるわけじゃない。
主人公を変えるのは、いつだって──。
「弟くん」
「……なあに、姉さん」
「お姉ちゃん、頑張るよ!」
一欠片の勇気ってやつだ。
────────。
────────。
────────。
「いやあ、ビックリしましたよ。まさかアオハル先生の方から電話がくるなんて」
「あはは、急にすいません」
「いえいえ、嬉しかったですよ。頼ってもらえて」
「そういって頂けると、助かります」
「それで、”最終回を書きたい”、でしたよね」
「……はい」
「本気なんですね?」
「はい」
「……」
「やっぱり、難しいですか?」
「いきなり最終回にしますと言われて、はい分かりましたとなる可能性は低いですね」
「……そうですよね」
「ですが、この件は私の方からも強く後押しさせていただきます」
「いいんですか?」
「まあだからこの意見が必ず通るというわけではないのですが。その時はまた一緒に考えましょう」
「は、はい」
「でも他ならぬ作者であるあなたが終わらせたいと思ったのなら、そうするのが最善だと私は思いますし、それを支援するのが担当者である私の役目です」
「……ありがとうございます。それで、あの」
「はい、なんでしょう」
「もしよかったらなんですけど、次回作を書くときも、また頼っていいですか?」
「……ええ、もちろんですよ」
────────。
その後に他にも色々な打ち合わせをして、今回も自宅の近くまで車で送ってもらった。
「アオハル先生」
「は、はい」
「少し気が早いですが。三年間、お疲れさまでした」
「……わたし、三年も書いてたんですね」
「ええ、そうですよ」
「あ、すいません、三年で調子に乗っちゃって。もっと書いてる人だっていますよね」
「長さは関係ありませんよ。あなたは三年間ずっと、真摯に作品と向き合っていたんです」
「……そう、ですか」
「はい。誰に何を言われようと、それだけは誇ってください」
「今まで、本当にお疲れさまでした」
わたし、ずっと助けられてたんだ。支えられてたんだ。
今まで、気付かなかったよ。
だって無理なんだから。自分のことは自分がよく分かっている、わたしはもう何も知らない子どもじゃない。
わたしはいつもこうだ。どんなに書き始めは調子が良くても、綺麗に幕を閉じることが出来ない。話を広げるだけ広げて、上手くまとめることが出来ない。
子どもの頃から成長していない。妄想の世界を広げて、とっ散らかして、何のオチもない話をずっと続けることばかりして。わたしはもう、これを仕事にしてご飯を食べているというのに。
「姉さん」
「今はそっとしておいて……」
「……」
あたまをそっと撫でられた。弟くんは本当に優しい。
「大丈夫だよ」
「うわっひぃ!?」
「いだぁっ!」
「あ、ごめん!」
耳元で話しかけられて、ビックリして飛び上がってしまった。わたしの後頭部が弟くんの鼻に直撃する。
うわあシリアスな空気が台無しだあ。
「大丈夫!?血は出てないね、ごめんね!」
「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言いながら弟くんはわたしのあたまを撫でる。え、この状況でさっきの話の続きしちゃう?
「姉さんなら大丈夫。だって、子どもの頃からずっと想像の世界を育んできた。俺との生活を続けてくれた」
「でも、お金を取っていいお話にならないようなものばかりだよ」
「そうなのかもしれないね。そればかりは姉さんの中にあるものだから、俺には分からないけど」
「昔書いたお話の続きも、今は書けないんだよ」
「それは嘘だね。だって昨日まではパソコンに向き合って書いていたじゃないか」
「……」
「自分の想像の世界を見つめるんだ。大人になって無意識のうちにアレはダメ、コレはダメだって捨てていったものさえも、もう一度見直して」
「……出来るかな」
「出来るよ、なんだって出来る」
「だって俺は仕事をしてとは言ったけど、お話の内容に口出しはしてない。だけど姉さんは書き続けられたんだから」
……。
そうだ、分かっていたことじゃないか。
わたしは作家だ、だからこそ沢山のお話を読んできた。いや、作家になる前だって。
そして目の前に居るのは、わたしの頭の中から飛び出した弟くん。それこそ、創作のお話のような存在。
そういった存在の役目は、主人公を変えること。だけどその存在そのものが主人公を大きく変えるわけじゃない。
主人公を変えるのは、いつだって──。
「弟くん」
「……なあに、姉さん」
「お姉ちゃん、頑張るよ!」
一欠片の勇気ってやつだ。
────────。
────────。
────────。
「いやあ、ビックリしましたよ。まさかアオハル先生の方から電話がくるなんて」
「あはは、急にすいません」
「いえいえ、嬉しかったですよ。頼ってもらえて」
「そういって頂けると、助かります」
「それで、”最終回を書きたい”、でしたよね」
「……はい」
「本気なんですね?」
「はい」
「……」
「やっぱり、難しいですか?」
「いきなり最終回にしますと言われて、はい分かりましたとなる可能性は低いですね」
「……そうですよね」
「ですが、この件は私の方からも強く後押しさせていただきます」
「いいんですか?」
「まあだからこの意見が必ず通るというわけではないのですが。その時はまた一緒に考えましょう」
「は、はい」
「でも他ならぬ作者であるあなたが終わらせたいと思ったのなら、そうするのが最善だと私は思いますし、それを支援するのが担当者である私の役目です」
「……ありがとうございます。それで、あの」
「はい、なんでしょう」
「もしよかったらなんですけど、次回作を書くときも、また頼っていいですか?」
「……ええ、もちろんですよ」
────────。
その後に他にも色々な打ち合わせをして、今回も自宅の近くまで車で送ってもらった。
「アオハル先生」
「は、はい」
「少し気が早いですが。三年間、お疲れさまでした」
「……わたし、三年も書いてたんですね」
「ええ、そうですよ」
「あ、すいません、三年で調子に乗っちゃって。もっと書いてる人だっていますよね」
「長さは関係ありませんよ。あなたは三年間ずっと、真摯に作品と向き合っていたんです」
「……そう、ですか」
「はい。誰に何を言われようと、それだけは誇ってください」
「今まで、本当にお疲れさまでした」
わたし、ずっと助けられてたんだ。支えられてたんだ。
今まで、気付かなかったよ。