2 私の知らない彼2

文字数 683文字

(さぁ~て、先輩のお宅・拝見っと……)

 部屋に入って中を見回すと、まるで安ホテルのような素っ気なさ。 

 壁に一着の黒いロングコートが掛かってる他は、数個の木箱だけ。

キッチンならあっちだけど。ん……ミラ、どうかした?
 急にテンションの下がった私に気が付いた彼が、気遣わしげに声をかけた。
ひどく寂しい部屋ね。生活感がまるでない
ああ……。越してすぐ君と付き合い始めたから、今まで部屋に構うヒマがなかったんだ
 そう言うと、彼は普段の柔らかい表情に戻った。
 狭いキッチンには、シンクと、作り付けの簡素なカウンターと食器棚。カーテンがないため、朝日が部屋の中程まで差し込んでいた。
(せめて、お花のひとつもあればいいのに)

 こんな寂しい生活を一人でしていたなんて、ちっとも知らなかった。


 ……彼は何も教えてくれない。


 暮らしぶりだけじゃなく、何もかも。


 いくら恋愛初心者の私だって、そろそろ愛玩動物は卒業しなきゃって思ってる。でも手の内見せてくれない先輩も悪いんだから……。

 神速で髪を整え、私服に着替えた彼は、私の隣で、まだ眠そうにコーヒーを啜っている。
先輩、眼鏡は?
あれは伊達眼鏡。あった方が助手っぽいでしょ? 

かけた方が君の好みなら……

 無理にかけなくてもいいよと言うと、彼は残念そうな顔で、再びコーヒーを啜り始めた。
ねえ……先輩は私のどこが好きなの?
い、いきなりどうしたの? ……全部だよ
ごまかさないで! 

おかしいじゃない。先輩みたいな大人が私なんかに入れ込んで……

 ふぅむ、と顎に手をあてて彼は暫し思案を巡らすと、
……知りたい?
 と意味深な顔で言って、部屋を出ていった。
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登場人物紹介

ミラ・ヤマザキ(16)

王立ローデア錬金術学院高等部、一年生。
遠い東方の小国「八州」人の両親から生まれ、王国では珍しい黒髪を持っている。黒髪がコンプレックスで、友人クリスのような金髪に憧れている。


クリステア=バロウズ(16)
ミラの同級生にして、唯一の友人。
明るい性格のゴシップ好きで、やや変人。他人の目を気にしない。
ふわふわの金髪を持ち、いつもミラにうらやましがられている。

ユノス=シンクレア(24)
ミラの担任教授の助手をしている、師範科の実習生。ミラの恋人。
銀髪長身の美男子だが少々常識に欠けているため、ミラに辟易されている。
二つ名は「白銀の騎士」、命名はクリス。

教授(53)
少々脂の乗った中年男性。
ミラ達の担任。授業を真面目に聞かない生徒には容赦がない。
町外れの大きな屋敷に住んでいるという噂。

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