2 私の知らない彼2
文字数 683文字
部屋に入って中を見回すと、まるで安ホテルのような素っ気なさ。
壁に一着の黒いロングコートが掛かってる他は、数個の木箱だけ。
急にテンションの下がった私に気が付いた彼が、気遣わしげに声をかけた。
そう言うと、彼は普段の柔らかい表情に戻った。
狭いキッチンには、シンクと、作り付けの簡素なカウンターと食器棚。カーテンがないため、朝日が部屋の中程まで差し込んでいた。
こんな寂しい生活を一人でしていたなんて、ちっとも知らなかった。
……彼は何も教えてくれない。
暮らしぶりだけじゃなく、何もかも。
いくら恋愛初心者の私だって、そろそろ愛玩動物は卒業しなきゃって思ってる。でも手の内見せてくれない先輩も悪いんだから……。
神速で髪を整え、私服に着替えた彼は、私の隣で、まだ眠そうにコーヒーを啜っている。
無理にかけなくてもいいよと言うと、彼は残念そうな顔で、再びコーヒーを啜り始めた。
ふぅむ、と顎に手をあてて彼は暫し思案を巡らすと、
と意味深な顔で言って、部屋を出ていった。