1 黒髪と金髪と白金髪と1
文字数 915文字
という中年男性の野太い声を号令に、
『バンバンッ!』
と分厚い本で何かを連打する音と、続いて女の子の『キャァッ』という悲鳴の二重奏が、講義室の高い天井に響いた。
一拍おいて、どっと沸くクラスメート達。
私の名前は、ミラ=ヤマザキ、十六歳。
この春、王立ローデア錬金術学院高等部の一年B組に入学したばかり。
私の両親は東方の小国「八州」の生まれで、親譲りの黒髪・黒目のために、子供のころから疎まれていたの。
背が低くて童顔に見られがちな八洲人の私は、クラスじゃお子様扱いで、学校の友達といえば、さっき一緒に頭を叩かれた『ゴシップ大好き少女』のクリステア只一人。
彼女はいま、呑気に金色のふわふわした巻き毛を指先で弄んでいるの。ろくに授業を聞いてないクセに成績がいいなんて何だか不公平。
近くで苦笑している青年が先月から教授の助手をしている師範科の実習生ユノス=シンクレア、二十四歳。
で、私のウザすぎる初彼。
長身痩躯を白衣で包み、腰まである白金の長髪を背中で束ね、整った顔には細い銀縁眼鏡、溢れる知性を盛大にムダにした残念な男。
ひと月前、彼が学食でランチ中の私に告白してきたの。
みんな見てるしもう最悪。
おかげで一瞬で全校生徒の噂になって、気付いたらKYなロリコン男と付き合うハメに……。
私をゲットして浮かれた先輩は、朝夕の送迎はもちろん、お昼も一緒、休み時間も一緒、ヒマさえあれば、私をネコっ可愛がりしてるの。
どうやって時間を捻出してるのかしら?
ある日、家に迎えに来た先輩を両親に紹介したら「友達が出来た」だけでも大騒ぎする彼等が『娘が将来を嘱望された青年に見初められた』って狂喜乱舞する大惨事に発展。
父は先輩に『君は一人暮しだからウチで朝食を食べなさい』と言い出すし、母は母で彼に毎日サーモン入りのライスボール弁当を持たせて餌付けをする始末。
もう~、うちの両親必死すぎ! これじゃ婿養子直行コースだよ!