第2話

文字数 1,513文字

少し家から離れたところにあるその病院に、電車を乗り継いでたどり着きました。
受付で渡された問診票に記入した後、ここの病院では看護師さんに話を聞いてもらいました。看護師さんは、診察目的以外では口外することはないので安心して話してください、と前置きしました。
私は「待合室」で書いた病院の時よりももっと緊張していて、何十年ものあれこれをいっぺんに話そうとしてしどろもどろだったと思います。うまく順序立てて話ができずに、看護師さんにポカンとされることもありました。
そして「父がやってくれても嬉しくないことをするのに、でも感謝しないと母に責め立てられる。」と言うことを説明したくて、父のことをいろいろ話していた時、
「お父さんはこだわりが強いですか?」
と看護師さんに聞かれました。私は、
「はい、強いです」
と即答しましたが、なんでわかったのだろうと思いました。
そしてその後またいろいろ話した後に、最後に看護師さんに、
「お父さんとお母さんどちらについてより悩んでますか?」
と聞かれました。
私は少し考えましたが、結局その問いには答えられませんでした。
確かに迷惑で傷つく言動をするのは父なのですが、その父を、
「お父さんは子供のためにいろいろしてくれたからね」
と言って子供の上に乗せてくるのは母なのです。

やがて呼ばれて診察室に入りました。そこには白衣ではなくチェックのシャツにチノパンと言う、とてもカジュアルな格好をした男性が一人机に向かっていました。30代くらいの細身の男性でした。私は正直、本当にこの人かな?と思いました。
その先生は軽く挨拶をした後、私の資料を見ながらいくつか私に質問しました。淡々と無駄のない話し方でした。私はまたしどろもどろで答えました。
「お母さんにいろいろ言われるんだね。」
と聞かれ、
「はい、こんなにやってあげたのにと言われて‥」
と私は答えました。すると先生は、
「子供を育てるのは義務だから」
ときっぱりと言いました。
「虐待とかはなかったんですけど‥」
と言うと、
「身体的にはね」
と言い、そしてまたキッパリと、
「やってもらっても嬉しくないことされるならはっきりそう言う、それだけ」
と言いました。私は少し焦りながら、
「でも、言っても母が聞いてくれなくて、、。」
と言うと、
「うーん、それはお母さんがちょっと‥。」
と言って少し考えました。そしてその後、
「とにかく相手の人格を否定する言い方はしないで、その行為は私にとって嬉しくないとはっきり言う、でも言っても聞いてくれないならきっぱり距離を置く」
と言いました。
「でも、そうするとなんか罪悪感が湧いてきてしまって‥」
「そういうふうに育てられちゃったんだね‥」
その後先生はまた距離を置きなさいと言うことを繰り返し、医学書をパラパラめくりながら、
「どうします?ストレス○○(はっきり覚えていません)って書いときますか?」
と言って私の書類に何が記入しました。そして私にそういう悩みを持っている人同士話し合える場もあるから、そういうのに参加するのもいいかもしれないですよと言って診察を終えました。

私は詳しく話を聞いてもらって、父が子供のためにと言ってやっていることは本当は自分のためである証拠と、親にそっけない態度を取っても私が冷たいんじゃないという言葉をもらいたかったのです。でも診察はあっという間に終わってしまい、どちらとももらえなくて、正直モヤモヤした気持ちで診察室を出ました。
どうやら私が診てもらった先生は、週に一度だけ他の病院から来てもらっている先生のようでした。電話で予約した時に言われたことが、少し分かった気がしました。

それからしばらく、私なりにまた考えたりしながら過ごしました。
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