第1話

文字数 2,219文字

 特に親子関係のことばかりを書くつもりではなかったのですが、同じように親子の間に悩みを抱えている方が読んでくださっているならと思い書きました。もっと壮絶な経験をされてる方もたくさんいらっしゃると思いますし、数年前の出来事ではありますが、よろしければ少し読んでもらえると嬉しいです。

「待合室」で初めて心の病院に受診した話と書かせていただきましたが、正確にいうと、親のことを相談しに行った2件目の病院でした。物語として書きたかったのかエッセイとして書きたかったのか、、中途半端になってしまって申し訳ありません。
 私の長い間の悩みは、親の要望通りの言動をしないと母に「なんで親に感謝する気持ちを持てないのか」と責め立てられることでした。DVを伴う激しい夫婦喧嘩とうつ病と、家庭の問題となるのは父の方のはずなのに、私の悩みがまず母であるのには理由がありました。
 いくら夫婦喧嘩を繰り返しても父と別れないことを選択した母は、
「私は子供のために家を出て行かなかった」
「お父さんは子供には手をあげなかったし、子供にはいろいろやってくれた」
 と言うようになったのです。
「子供のためにいろいろやりすぎて病気になった。」
「そのことで私たち親はこんなに苦労しているのに、なんで親に感謝する気持ちが持てないのか。」
 という言い分です。
 この母の発言の数々に、当時からたくさん違和感はありましたが、子供がそれを説明する力を持ってはいませんでした。
 確かに父にしてもらったことはたくさんあります。何歳でどの習い事をさせるなど、父が細かく計画を立てました。良かったこともあれば、仕方なく従っていたこともあります。そしてそれは父が病気になり出来ないことが多くなるにつれ、良かったことは無くなっていき、私の友人関係をコソコソ調べて口出しするなど、むしろ嫌なことがほとんどになっていきました。子供の為にあんなにしてくれていた父が、病気になったら病気をよくして働こうとする、普通に考えて当たり前のことをしてくれないで、なんて返って子供に迷惑なことばかりしてくるのだろうと、本当にわからなくてずっと悲しい気持ちでいました。でもその嫌な気持ちを表に出すと、母に
「お父さんは病気なんだから傷つくようなことを言ってはだめ」
「お父さんは気持ちでやってくれてるんだからそんな態度をとったらダメ」
 と言われました。
 父はいろんなことに対してこだわりが強く、夫婦喧嘩のほとんどの原因も、母が父のこだわりに反した行動をすることでした。そして子供にしてくれたいろいろなことも、父自身のこだわりからきているのだと思います。自分が元気な時は、子供を自分の思った通りに育てることと、時には子供の要望に応えて感謝され、賞賛されることによりいい父親であるという満足感を得ることができました。でも、病気になり出来ることが限られてくると、できる部分で迷わず、子供がしてほしいことではなく自分が子供にしたいことを選ぶようになったのだと思います。自分のこだわりの方が父にとって重要であった証拠だと思います。そして子供の気持ちを考えるよりも、自分の行為の追い風になる母の言葉をすんなりと利用しました。
 結局父が「子供のために」と言えば、父の心を開けて母に証明することなどできません。母の言葉に反撃する言葉がないままずっと苦しみました。
 そんなことが何十年も続き、その間にいろんなことがありました。毒親に関する有名な本を読んで、子供の前で激しい夫婦喧嘩をすることは心理的虐待にあたることも知りました。そのことを母に言おうかと思うこともありましたが、その度に母の「父さんは子供のためにできるだけのことをしてくれたからね」という言葉が頭の中で聞こえるような気がして、結果「それくらいのこと」と自分に言い聞かせました。
 それでもとうとう私の心は限界と感じるようになってきていました。そんな時私はあるパーソナリティ障害という言葉を見つけ、父がまさしくこれだと思うようになりました。父の子育てへのこだわりがこのパーソナリティ障害のせいなのではないかと思いました。そして初めの病院へは、その相談に行きました。父が子供のためと言ってやっていることは、本当は自分のこだわりのためなのだと、いい父親である自分にこだわっているのだと母に証明したかったのです。そうすれば、母の「なんで親に感謝する気持ちを持てないのか」の言葉にようやく反撃できるのだと。
 具体的に悩んでいるのは母との関係なのに、父のパーソナリティ障害を相談に行くという、他の人が聞くと突拍子もない相談だろうと思います。でも私は至って真剣で、必死でした。きっと誰にも相談できないまま何十年も家族の中でいろんなものを拗らせてきた結果、それでもその時私がやっとのことで考えた方法だったのだと思います。
 ネットでパーソナリティ障害の相談にものってくれると謳っている病院を見つけ、予約の電話をしました。電話にでた方は、
「お父さんがですか?」
 と不思議そうに聞き返しました。そして私が希望の曜日を言うと、
「その曜日ですと‥」
 と少し迷った後、それでもなんとか予約を入れてくれました。そしてその後、
「もし先生と合わないと感じたなら、違う先生に変えてもらうこともできますので‥」
 と付け加えました。

 そして初めの病院で相談させてもらうことになります。そのことはまた次回書かせていただきます。
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