第4話 ムーン・スペースとの別れ

文字数 623文字

 今週末になったので、早めにぼくは寝床に就いた。今夜はかぐやとも窓際で話さなかった。かぐやの両親もぼくの両親もムーン・スペースで月に行ったきりだった。
 とても静かな夜だったんだ。
 かぐやも明日のケーキ屋さんに備えたんだろうとぼくは思う。

 一体、御宮下商店街の一角にはどんなケーキが並んでいるんだろう。

 だけど、日曜日の朝に目が覚めたら、街のようすが一変していた。
 どんよりとした曇り空の日だった。
 
 そこは、崩壊した御宮下市。
 きっとムーン・スペースが倒壊したんだ……。

 早めに商店街へと出たかぐやともはぐれてしまった……。
 
 巨大なムーン・スペースが倒れた御宮下市でぼくはかぐやを探した。
 みんなが乗っていたはずのたくさんの大きなゴンドラも、御宮下市の至る所に落ち散乱している。

 ムーン・スペースの銀色のパネルも地面に散らばっている。
 でも、怪我人もいない。
 人もいない。

 みんな竣工式の賑わいから月に行ってしまったようだった。

 もう地球へと戻れることのない月へ。
 大勢の笑顔はもう帰ってこない。

 どんよりとした曇り空を見上げる。
 ぼくは月とみんなに向かって「さよなら」と手を振っていた。
 
 涙が突然零れ落ちる。
 ここ御宮下市でぼくは独りぼっちになったような錯覚を抱いて……。 

 曇り空の隙間から虹が覗いた。
 御宮下商店街まで無人の大通りを歩いた。
 その一角にあるケーキ屋さんは、空から降ったゴンドラによって倒壊していた。

「ひかり!」
「え?!」
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