第1話

文字数 1,702文字

小沢 時生・オザワ トキオ(24歳)
《ペンギン・カフェ》噂を聞きつけて来店

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ついに来てしまった
《ペンギン・カフェ》。

ここではナニカ不思議な事が起こると言う。

都市伝説的に有名なのに
何故かなかなかこのカフェに辿り着かない。
というかこの街に辿り着かない。

この街は学園都市だし
楠木大学も楠木高校も有名校なんだから
辿り着かないなんて訳ないのに

僕はここに来るまでに1ヶ月かかった。

1ヶ月前に
『ペンギン・カフェの壁画ペンギン達が
空を飛んでたらしい』
という情報を手に入れていたのに

バスに乗れば水道管破裂で通行止め
地下鉄は何度乗っても睡魔で乗り過ごす。

しかし!僕はついにやった!
今夜ようやく、睡魔でフラフラしながらも
このカフェのこの席
噂のペンギン達が描かれた真っ白な壁が
見渡せる席に辿り着いた!

「BARな。この時間はカフェじゃなくて
《ペンギン・BAR》になるんだよ」

「へ?」

振り返ると
カフェのカウンターに並んだお客さん達が
みんなでコッチをじっと見ている。

「兄ちゃん大丈夫か?」
「だいぶ心の声がダダ漏れてたぞ」
「闇抱えてるのねぇ。暗黒面に気をつけて」
「出た!スターウォーズ!
今日ロードショーでやってたよな」
「ねぇ。SFってスペース・ファンタジー?」
「スターウォーズはスペースオペラだろ」
「SFはサイエンス・フィクションですよ」
「さすが本屋!」

カウンターの人達は
あっという間に僕の事を置き去りにして
SFの議論に花を咲かせていた。


「お待たせしました。
ホットココアとコロッケサンドです」

向き直ると
さっきまでカウンターにいたお兄さんが
僕のテーブルに注文したココアと
頼んでないコロッケサンドを置いていた。

「あの、えっと…」

こんなイケメンお兄さんの笑顔の給仕に
僕なんかが水を差していいものか?
思いっきり戸惑ってる僕に

「騒がしくてすみません。
この時間は商店街の常連さんが多くて
つい皆さんフレンドリーになってしまって。
今夜はあちらに座ってる常連さんの
肉屋さんとパン屋さんのコロッケサンド
開発会をやってるんです。
よろしかったら試食してご意見いただけ
ませんか?」

まったく押し付けがましくない笑顔と
口調でコロッケサンドを勧めた。が、

「兄ちゃん腹へってるだろ?」
「食うの困ってんじゃねーか!?」
「なんかフラフラしてたしなー」
「遠慮せんで食え!いくらでもあるからな!」

常連さん達はガッツリ
押し付けがましく押し付けてきた。

死んでも食べるかっ!!

そう。僕は今食うに困ってる。
ココアを頼んだのも腹持ちするからだ。

だからこそ
『空飛ぶ絵のペンギン』を写真にとらえて
情報誌に売り込んでお金にしたい!
それから僕は「UFO」でも「UMA」でも
どっちでもいいから「空専未確認研究家」
として売り出して有名になる!
要するに、一攫千金を目論んでいるんだ。


まずはこのガード緩そうな常連さん達から
情報を聞き出して…

「だから今度は絶対すぐよぶから!
ほら!な!見てみろってこれ!
俺の超大作『ペンギン蜃気楼と乙女』。
いつもは壁とか板とかだからな
キャンバスなんて初めて描いたわ。
これあげるからいい加減機嫌直して
手伝ってくれよ、岬チャン」

今度は逆の方を振り返ると
僕のテーブルの後ろの席で
大男が小麦色の綺麗なお姉さんに
見せている絵が飛び込んできた。
巨大な『空飛ぶペンギンの大軍』の絵が。

…なんなく情報ゲット。

思わずカメラに手が伸びた時
絵を持ってる男の人と目が合った。

熊みたいに大きい体に鋭い眼光。

秘密を知った僕は抹殺される!
と身構えたけど、
拍子抜けするほどスルーされた。

「鉄ちゃん、ついに物に打って出たか」
「もう1ヶ月無視されてるもんなー」
「しょうがないわよねぇ。みーちゃん」
「そうだなー。ペンギンの飼育員だもんなー」
「ペンギン魂ハンパないもんな」
「見たかったわよねぇ。ペンギン蜃気楼」
「3時間も飛んでたんだから
呼ぶ暇あったでしょうに」
「見たの鉄矢とマダムだけだろ?」

そして拍子抜けするほど出てくる情報。


「ちょっと待って下さい!!」
僕は気づいたらそう叫んで立ち上がっていた。
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