11)

文字数 862文字

 3週間が経過した。
 雅彦は三面図とスーツの構造を描き終え、高島に連絡を取った。日曜日に倉庫で会うと返答が来た。
 高島との約束の日になった。
 雅彦は朝早く起きて家事を終えると準備をし、重い足取りで高島のいる倉庫に向かった。
 高島は仲間達と毎週の通り打ち合わせをしていた。雅彦に気づいた。「おはよう」
「おはようございます」雅彦はたどたどしく声をかけてテーブルに向かい、絵の入っている封筒を置いた。
 高島は封筒を開け、入っている三面図と設定のイラストをテーブルに置いた。設定にはマスクやスーツの装着の仕方や動きについてまで書き込んである。
 仲間達は緻密なイラストを見て驚いた。
 高島は冷静にイラストを精査した。一通り見終えると紙をまとめた。「十分だ」
 雅彦は高島の言葉を聞き、力なく息を吐いた。
 高島は紙を机に置き、奥に向かった。
 仲間達は雅彦が持ち込んだ緻密で写実なイラストに見入った。
 雅彦はカバンの口を閉め、引き下がった。
 高島が奥から封筒を持って来て、雅彦に封筒を渡した。「謝礼だ、昼飯の足しにでもしてくれ」
 雅彦は高島から封筒を受け取った。1センチメートル程の厚みがある。疑念を覚えて高島を見た。
 高島は雅彦と目線が合い、笑みを浮かべ、封筒をカバンに入れた。「お前は仕事をしたんだ、受け取るに値する」
 雅彦は高島に頭を下げた。「ありがとうございました」きびすを返した。表情は暗かった。
「また、一緒にやろうな」高島は雅彦に声をかけた。
 雅彦は、涙を浮かべて走り去った。
 高島は大きめの封筒を棚から出して、雅彦が納品したイラストを整理して入れ直した。「いい奴だったろ」高島は秋元に話しかけた。
 秋元はうなづいた。
「お前の伝がなかったらアウトだった。地元から離れてなくて助かった」高島はイラストを封筒に入れ、棚に入れると代わりにクリアファイルを出して開いた。クリアファイルには大学ノートの切れ端が挟んである。「格好悪いヒーローが書けるのは奴だけだ」ノートの切れ端を眺めた。切れ端には不格好な変身ヒーローの姿が書き込んである。
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