第28話 出入り自由

文字数 654文字

「死ぬというのは、どうもよくわからない」Kが言った。
「死んだことがないからな。ところで、生きているが、生きるというのは、何か分かったのかい」Iが言った。
「それもわからんな」
「そうだろう。生きるも死ぬも、同じことなんだからな」

「それでも、違うと人は言う」
「違う、と思っているだけさ」
「どうして分け隔てるんだ?」
「同じだから、分け隔てることができるんだろう」
「ほんとうは、+も-も、○も×も、同じなんだな」
「同じじゃ、都合が悪いから、差別をつけるんだ」
「人間って、自分で差別をつくったくせに、そのために自分を苦しめているんだな」
「因果応報、輪廻転生。前世も後世もないよ。今生だけで、ひとりで巡り巡ってる」

「哀れなものだね」
「愚かともいえる」
「俺たちも、その人間か」
「人間だけが、貧富だの優劣だのをつくって、嘆いたり喜んだりしている。もともとなかったものに、色を塗って、縁取りを与え、これが良くあれが悪いなどと弁別する。何がそうさせているのか、知ろうともしない。目に見えるものばかりを尊んで、それが全てだと思っている」

「尊びもせず、蔑みもしない。ただあるがままであるものを、ただあるがままのであると是認する。いや、是も否もない。ただあるのだと見つめる。鳥獣を差別して、何を特別だと思うこともない」
「そのような人間が、あるのだろうか」
「あんたもわたしも、いきもののはしくれだ。そうあろうとするところへ、心をあそばせるがいいよ。とらわれず、さまよっていれば、そのうちこの世もあの世も、行き来が自由にできるようになるよ」
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