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文字数 937文字
まるで夢の中にいるようだと、痺れたようにうまく働かない頭で思った。
何をしても実感が伴わないような、そんな気分が続いている。
仕事に行けば疲れるし、何かを食べればうまいとかまずいとかを感じるのだが、そんな自分をどこか冷静に――というより他人事のように見ている自分が居るような心地だった。
いつからこうなったんだろうと考えることはやめていた。考えるまでもなく、その原因がわかっているからだ。そして、それを認めたくないからこうなっているのだと、この現状を俯瞰している頭の中の自分が言っている。
しかし、自分の都合だけを考える現実逃避というのは続かないものだ。
きっかけは一通の手紙だった。
内容は差出人の結婚を知らせるものだ。
差出人は結婚を迎えた新婦の方だった。手紙に貼り付けられた写真の上で、着飾った新郎と一緒に、華やかな純白の花嫁衣裳に身を包んで――その華やかさとは対照的に、嬉しそうでもなんでもない、静かな表情でこちらを見据えている。
……いや、嬉しいかどうかの部分については、私がそうであって欲しいと思う部分があるからだろう。そう思いたいから、そう感じるだけのことかもしれない。
とは言え、少なくとも彼女の顔に笑みは浮かんでいない。写真に写った人々の表情のだいたいがそうだったから、とても目立っていた。
ただ、彼女はなぜこんなものを自分に送りつけてきたのだろうかと思わずにはいられない。
――そうすれば、いつまでも靄がかかったままで、何も実感しないままで人生を終われたかもしれなかったのに。
彼女が結婚した。その事実をいやがおうにも認めさせる材料が手元に来たことで、今まで頭の中を満たしていた霞が一気に取り払われて、あらゆる感覚が音を立てて噛み合った。
目を背けていた現実が、認めなければそうならないと思い込んで見ようとしなかったものが本当のもので、それはもう覆らないのだと感情が納得した。
だから、口から嗚咽が漏れた。膝から力が抜けて立っていられなくなって、その場で膝を折って蹲った。
もう自分にそんなことをする権利なんて無いのに、そうせずには居られなかった。そして、どうしてこうなってしまったのだろうと思わずには居られなかった。