文字数 678文字

 彼女が立ち去ってから、周囲の状況などはめまぐるしく変わっていった。
 周囲に出回っていた噂はあっという間に消えていき、それまで散々に扱ってきた人間も普通に声をかけてくるようになった。
 元々内定をもらっていた会社からも、その後、内定取り消しに関する話はなかったことにして来て貰えないかという連絡が入ってきた。
 あまりにも事態が好転しすぎて思わず笑ってしまったが、この変化に彼女が関係していそうなことは確かだったろう。私に確かめる術はないが、彼女の両親に助力を申し出た相手は相当な資産家で、その力によるものなのだろうかと妄想のような予想をしてみたこともあった。
 周囲の人間に関しては信用が置けない相手からは距離をとった。あの噂がはびこっている中で、こちらを心配してくれた、わずかに残った友人と呼べる相手との縁は、大事にしていこうと思っている。
 内定については、これから暮らしていくためにも仕事は必要だから経緯に拘らずに入ることにした。入ってみると、これが案外と居心地がいい――というより、割と放任というか飼い殺しみたいにされている感じはあった。金が入ればいいと、漠然とそう思っていたから気にはしなかったが。
 今になっても気にしているのは、彼女のことだけだった。
 彼女の姿をきちんとこの目でしっかりと見られたのはあれが最後だった。あれ以来、どこに行っても彼女の姿は見られなかった。大学の卒業式にも出なかったし、家はいつのまにやら引き払われていたからだ。


 何が悪かったのだろう。何をすればこの事態を避けられたのだろうと後悔しない日はない。


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