第3話 『潮風の下で』

文字数 1,140文字

レイチェル・カーソン
上遠恵子(かみとおけいこ)=訳
(原題)Under the Sea-Wind
宝島社
1993年5月10日初版発行
1993年10月1日第3刷

この本は、海洋学者としてのレイチェル・カーソンがアメリカ合衆国商務省の漁業局に勤めながら、1941年に出版した最初の著作です。

海に暮らす鳥から始まり、魚、プランクトンなど海のあらゆる生物の食う食われるの毎日の生活、壮大な回遊などを描いています、この作品は、宮沢賢治が言うところの「幻燈」のようなもので、カーソンの長年の観察と研究、そして作家の想像力が組み合わさってできています。

翻訳者の上遠恵子さんは、カーソンの著作や伝記を数多く翻訳されており、レイチェル・カーソン日本協会代表理事をお務めです。私は技術翻訳に携わっていますが、昔、出版翻訳に憧れました。ハイゼンベルクの伝記なども読んで翻訳者が物理学者だったり、翻訳という作業は緻密で根気が要り、対象分野の深い知識と、この本をどうしても日本語で出したいという熱意を出版社に伝える能力が必須です。マイケル・フレインが戯曲『コペンハーゲン』を執筆するのにどれだけたくさんの本を読んだか、そのリストを見て読んだ、デビッド・キャシディの物理学者ハイゼンベルクの伝記の量と深さに、出版翻訳は「ちょっとやってみたい」ではできないことを思い知りました。上遠さんは生物学者ではないけれど、文章はとても読みやすく、この本に登場する動植物の説明や、添えられたイラストもとても理解に役立ちました。もちろん、学者だったり、元出版社勤務など、翻訳のチャンスが高い職業もありますが、翻訳出版はそれだけではできません。

本書には『沈黙の春』のような説明は少なく、海の世界を描いた映画のようです。このような本をあまり読んだことがなく、最初は読むスピードも出ませんでしたが、それぞれの魚に名前が付いていたりして、海の世界に引き込まれました。

自然や環境問題にも今まであまり関心がなく、物理も数学も赤点だった私が、六十歳を超えてそんな分野の本を読むとは思ってもいませんでした。人生、何があるかわかりませんね。フィンランドファンになったのも、同国の豊かな自然に触れ、関心を持った理由かも知れません。


三百円ショップのアームレストに本を置いて、右に電子辞書、左に『沈黙の春』の古書を置いて押さえて読みました。ちなみに『沈黙の春』は、わざわざ古書を買わなくても、近所の書店にありました。大きなショッピングモールの書店にはなかったので、近所の書店の見識に関心しました。

未読の方、もちろん今と問題の内容は少し違う面もありますが、現代でも古くなく、そこら辺の環境問題本を吹っ飛ばすカーソンの著作のご一読をお勧めします。

2024/3/19火曜日
ろっべ


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