第2話 悲しき怪物

文字数 1,964文字

「ササキさんには契約が完了しましたら左手首にQRコードの刺青を彫っていただきます。こちらのスマートフォンを読み取っていただくと変身が完了します。」
 「契約?変身?タカシロさんさっきから貴方は何を言っているんですか?分かるよう」
 タカシロが右手を前に突き出しササキの言葉を静止する。
 「もちろん、今ここで実演させていただきます。」
 タカシロは指をパチンと鳴らすと奥からこのカフェに到着した時席を案内した若い男性の店員が近づいてきた。
 若い男はタカシロに断りもいれず無言で左手首に彫られたQRコードを読み取った。
 「変身」
 一言そう呟くと若い男を中心に強烈な熱波が発せられた。
 熱波と共に暴風が吹き荒れ、カップが割れる、机が倒れる。店内はガラス張りになっており外から中の様子が見える作りになっておりそれら全てが割れて轟音と共におおきく飛び散った。
 ササキは近い距離で熱波を受けて思わず椅子をもろとも後方に倒れて頭部を強打した。まわりの店員や客も含めて大きなパニックが起こった。まるで地震でも起きたような事態になった。
 そんな中でもタカシロは涼しい顔をしている。決して慌てるようなことはなく、一部始終を詰めいたい表情で眺めていた。
 熱波が鎮まり机を縦に佐々木がゆっくりと起き上がると若い男の姿はなく、代わりに2メートル近くある異形の姿をした存在が姿を現した。
 特に特徴的なのが青い大きな複眼だった。全身は白く爬虫類のような湿っており、身体中に害虫が這い回っているようななんとも嫌悪感を掻き立てるような姿をしていた。
 今の異常事態で店内の客と店員はササキ達以外は全て外に避難したようだ。今残っているのはササキとタカシロと異形の化け物そして離れた席で独り言を呟いている少女が一人いるだけだった。
 「あっくんさぁ、今日の夜はミイナ焼肉が食べたいなぁ、その後でヨガやって洗濯してそれから仕事にいくの。朝礼の準備があるからね」
 話している内容は支離滅裂。一連の出来事で精神がおかしくなってしまったのだろうか、
 「ササキさんよくあの少女を見ていてください。貴方の奥様もいずれああなりますよ。」
 少女を席から体を左右に揺らしながらゆっくりと立ち上がる動作が非常にゆっくりとしており、この異常な空間をさらに非現実的なものめと変えていく。
 「太一くん。ほら、君の大切な彼女が醜く堕ちていくよ。早く『救わないと』」
 タカシロに太一くんと呼ばれた白い異形の怪物は小さく頷いた。
 怪物は独り言を呟き続ける彼女に向けて歩き出そうした瞬間、今度は彼女から強烈な熱波が発せられた。
 暴風でガラスやカップ、の器具や破片が再度舞い上がった。ササキはとっさに顔を隠す。
 熱波が収まり、顔を覆っていた両腕を下ろすと少女の姿が蜂の姿を模した怪物に変身を遂げていた。手が4本あり指の爪が針のように尖っている。全身が金属のような光沢感を放っていた。
 白い怪物は変わり果てた彼女に向かって吠えて走り出した。
 その声の大きさに今度は顔を耳を覆う羽目になった。蜂の怪物を呼応するかのように悲鳴にもにた甲高い雄叫びをあげる。
 1M程の距離まで近づくと白い怪物は飛びかかり蜂の怪物を押し倒した。
「あの醜い白い怪物が私が開発したグレイヴヤード因子に感染した患者に唯一対抗できる生物兵器、ブレイクです。」
 白い怪物、ブレイクは蜂の怪物にむけて拳を作り振り下ろす。その度に金属のように固そうな皮膚はケーキのように、簡単に、無惨に潰れた。それを胸、腹、頭部になんの躊躇いもなく叩きつけた。それを続けるうちに叩く音がだんだん弱くなる。身体を叩きすぎて体の体積が薄くなり、肉が潰れる音ではなく、水風船が割れるような音に変わった。
 その光景を呆然と眺めていたササキは思わず胃の中のものを全て戻してしまった。
 「私もあれになれと?」
 ふと、タカシロに目線を戻すとスマートフォンで誰か話をしていた。
 タカシロと目が合うと微笑みを返された。
 「これが一連の流れです。先ほどもお伝えしましたが他者の命とそしてこちらのスマートフォンの貸与するのに2,000万、現金でのお支払いをしていただきます。」
 「私もあの怪物になり、妻を殺せということですか」
 タカシロはその質問には答えない、先ほどと変わらない笑みを浮かべるのみだった。
 自分の妻を救うためにここにきた。しかし方法を大金を払い自分の手で殺す手段だった。
 「それではもう一度お話していただけますか?奥様をおかしいと感じてから今日私と会うまでにどのような出来事があったか。順を追って説明いただけますか?」
 タカシロは倒れた椅子を起こして座る。ササキは地面に手をついて跪いているような様子になっていた。
 この時点で私の決断はすでに決められていたのかも知れない。
 
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