第4話 2ヶ月前 妻狂気②

文字数 1,584文字

家に着く頃にはある程度気持ちは落ち着いたササキはまだ分からない将来の事よりも現在どうするか、目の前の問題の対策を考える事にした。
 まだ物忘れや徘徊癖がついた程度、家族全員で協力して補助すれば当面は大丈夫なのではないかと考えた。
佐々木は娘のアヤナと協力をして好美の補助する形で生活をはじめた。仕事や学校もあるので1日のルーティンやタスクを書いてもらいそれが終わっているか1つずつ丁寧に行った。買い物や家事も出勤前に出来る事は協力していった。
 好美も常に物忘れが起きる訳ではなく意識することで改善されつつあった。
 徘徊癖も気づかないうちに知らない場所にいる事もあったがササキはその度に車で迎えに行った。
「きっとなんとかなる。家族で協力すれば、、、」
 それから3ヶ月が過ぎた頃
 ある深夜の事だ。
「好美。こんな夜にキッチンで何をしているんだ。」
 夜トイレで目を覚ました佐々木家は2階が寝室になっており、アヤナの部屋は向いの別室になっている。階段は丁度その中間にあり、降りた時酷い異臭を感じたのだ。
 匂いの元はキッチンからだった、酷く生臭く佐々木は鼻をつまんだ。おそらく生ものであるのは分かった、キッチンに向かうと部屋は暗く、調理場の間接照明だけが明るくなっていたのだ。
「なにって、見てわからない?アヤナのお弁当をつくっているのよ?最近調子悪くて作れていなかったでしょ?その準備をしているのよ。」
「準備?こんな遅い時間にすることか?今深夜の2時だぞ?」
「あら?もうそんな時間だったの。気づかなかったわ」
 いつもどおりのとぼけたような反応だ。少し安心したのもつかのまひどい異臭について聞く
「ちなみに食材は何をつかっているんだ、すごい臭いだぞ」
「そうかしら、とてもいい匂いよ?風邪でもひいたんじゃない?」
 そう言って振り返った妻の姿に佐々木の眠気は吹き飛んだ。いつものお気に入りだと言っていたエプロンが返り血で真っ赤に染まっていたのだ。しかもキッチンの照明しかつけていないので暗くて分からないが相当な量の血があたりに飛び散っているはずだ。まるで殺人現場、見えないのがより一層不気味に見せていた。
 「好美……今日もはもう遅い、明日はお弁当がなくていい、片づけてゆっくり休んでくれ」
 とりあえず、佐々木はこの状況を一旦止めることにした。このまま放置して行動をさせてしまったら取り返しのつかなくなるのは目に見えている。
 最近すこしずつおかしいともい思っていたがとんでもない方向に向かっている。病院で聞いた話では発症から姿が変わるまで1年と聞いている。姿が変わらなくてもすでにためらいもなく殺人を行えるというのはすでに自分の手には負えない状況になってしまっている娘へ危害出る前に実家へ預けるべきだ。
 (この病名も症状も結果だけしか分かっていないんですよ、どうして、この症状がでるかも分かっている先生は非常に少ないんです。)
 ササキは医師が言っていた事をふと思い出した。
 少ないとは言ったが存在しないとは言っていない。
 もはやなりふり構っている余裕はなかった。ササキは朝一番で病院に行くことを決意する。
 そして娘のアヤナの部屋へ向かった。

 翌朝、ササキは朝一番に病院へ車を走らせた。中野ともう一度話をするためだ。
 診療時間を待っていては、時間が決まっており他の患者や先生の目が気になる。この早朝に中野を捕まえて詰問すれば何か引き出せるかもしれない。
 あの時の自分は本当に追い詰められていたのだろう。小さな果物ナイフをポケットに忍ばせるくらいには。
 佐々木は病院の入り口がよく見える。一番近い駐車場に車を停めてひたすら待った。
 2時間経過した頃、七時三十分を回った頃、中野は現れた。
 20代の看護師だろうか、仲良く手を絡ませて仲睦まじい姿を目撃する。
 佐々木はスマートフォンのカメラを起動した。
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