二・鷹(2)

文字数 2,249文字

 ラブホテルの地下駐車場に車を止め、受付を済ませてエレベーターに乗った。そこには俺たちの他に中年のカップルがいた。

 そこで鷹は背後から、焦らされ続けてすっかり硬直した俺の股間を、俺の前に立っている中年カップルにばれないように翼で弄り始めた。羽の一本一本がパンツの中で露出した陰茎の先端に触れる。

「ヤバいって」

 と後ろを向いて抵抗すると、その口を嘴で塞がれた。そして鷹は嘴で俺の唇をこじ開けて長い舌で俺の口内を掻き回し始めた。さらに片方の翼をTシャツの中に入れて乳首を触り、もう片方の鷹は翼の先をジーパンに侵入させ、パンツの中に入れた。

 快楽で力が入らなくなった腰を、膝で支えながらも容赦なく続ける鷹の責めに、呻き声を抑え切れずに漏らすと、潤んだ視界の中で、遂に中年カップルが振り向いたのが分かった。

 エレベーター3階に止まると、中年カップルはコソコソと喋り、笑いながら降りて行った。

「絶対バレたよ」
「でも興奮したでしょ?」

 俺は何も言い返せなかった。「ほら」と見せて来た羽の湿り気を、鷹は俺の頬に当てて笑った。


 自分たちの部屋に到着すると、鷹は、

「先に浴びて来て」

 と俺をシャワー室へ送り込んだ。俺は大急ぎでボディーソープを体中に擦り付けたが、局部だけは慎重に洗った。今にも射精してしまいそうだったからだ。

 俺がベッドに戻ると、鷹がベッドのいたるところに「おもちゃ」を用意していた。
 手錠、縄、ムチ、猿轡、ローションの入った容器、サテン生地の手袋、アナルビーズ、ピンクローター・・・etc

「期待して待っていてね」

 鷹はそう言ってシャワー室に入って行った。水の音がし始めた時、俺は興奮で居ても立ってもいられず、腕で口を抑えながら叫んだ。それだけでは耐えられず、俺は叫びながら部屋中を跳ね回った。

 笑い声が聞こえたので振り返ると、鷹は既に戻って来ていた。

「そんなに興奮しちゃった?」

 俺は興奮の余り羞恥心を感じる余裕もなかった。何故なら目の前にいたのは、レザースーツ姿の鷹だったのだ。しかもそのレザースーツは胸と局部が露出していた。

 全身が熱くなってゆくのが分かった。

 鷹が微笑みながらこちらに近付くだけでどうにかなってしまいそうだったので、俺は後ずさりしたが、ベッドが行き止まりになって俺はベッドの端に腰掛ける格好になった。同時に腰に巻き付けていたバスタオルが解けて陰茎が露わになった。

 鉤爪が俺の爪先に触れた。たったそれだけなのに、俺は身を捩った。鷹はおかまいなしにその鉤爪を、俺の爪先、足の甲、脛、膝、太ももと順番に、皮膚に触れるか触れないかの絶妙な距離で這わせながら俺の局部に近付けていく。

 鉤爪が局部に到達するかしないかというところで、鷹は俺の局部の前で鉤爪を空中で遊ばせた。その鉤爪が動く度に、俺の陰部はピクピクと反応した。

 鷹は次に、鉤爪を俺の顔のところまで上げ、

「掃除してぇ」

 と言った。俺は「待て」を解かれた飼い犬のように一心不乱に鉤爪を舐め回した。猛禽類特有の獣の濃い匂いが脳内に無数の花火を打ち上げる。

 口から離れて行く鉤爪から糸を引く自分の涎を、俺は名残惜しそうに辿ったが、

「ストップ」

 の一言で止めた。

 突如、鷹が俺の胸の前で翼を広げた。俺は衝撃で仰向けに寝た。そこにすかさず、鷹が馬乗りになる。

 鷹の顔が近付いて来る。そのスピードが遅々たるものに思えて仕方がない。

「眼を瞑って。じっとしていて」

 鷹の目に吸い込まれた俺が小さくその中にいた。言われた通り目を瞑ると、その闇の中で俺の鼓動が急に大きく高鳴りだした。体中の皮膚が敏感になり、全身が性器になってしまったようだった。

 体が軽くなった。鷹は何を使おうとしているのだろう?猿轡?ムチ?ローション?サテン地の手袋?それともアナルビーズ?これから何をされても、直ぐに絶頂してしまう不安と期待が俺にはあった。

 物音がしなくなった。放置プレイだろう。


 やがて秒針の音が聞こえ始めた。鼓膜の内側で鳴る脈動は収まっていた。いつまで経っても鷹は触れて来ない。準備の途中だったら申し訳ないと思ったが、流石に不安になって、

「まだ?もう我慢できないよ」

 と声を掛けた。その響きは部屋中に空虚に広がった。俺の不安は益々大きくなった。

 ゆっくりと目を開けるとそこに鷹の姿はなかった。起き上がって部屋中を探し、廊下も見たが、鷹はいない。だが「おもちゃ」は変わらずそのままだ。

 狐に摘ままれたような気持になっていると、携帯が鳴った。鷹からの着信だった。俺は即座に電話を取った。

「何?どうゆうこと?」
「びっくりした?」

 そう言うと鷹は大笑いした。嫌な予感がした。笑い声の向こうから羽ばたく音も聞こえて来たからだ。

「もしかして、帰ってる?」
「そうだよ?」

 俺は膝から崩れ落ちた。

「酷いよ」
「それ全部持って帰ってね。奥さんに見つからない様に頑張ってね。じゃあね」

 そう言うと鷹は一方的に電話を切った。俺はよろよろと立ち上がると辺りを見渡した。これだけの大荷物を持って帰らないといけないのか。どこだったら富士山に見つからないだろうか。

 俺は部屋を片付け始めた。がっかりはしたが、同時にまた少し興奮が蘇っていた。これがまだ焦らしの続きだということを理解していたからだ。
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