うん。
文字数 641文字
灰色の石で造られた冷たいベンチ。
公園の噴水をぐるりと囲んでいる。
いつもいつも座っている
ぱらぱら玄米をばらまいている。
そばに行くと大きな手で撫でてくれた。
私の手を
あげてごらんって言う声はしわがれていて優しい。
閉じているような目の中の黒も優しい。
この鳩たち飛ばないね。
羽の開き方を忘れてしまったんだよ。
どうして?
毎日わしがごはんをあげているせいさ。
じゃあおじいさんは悪いことしてるの?
そうかもしれないね。
どうしてやめないの?
どうしてかな。
鳩たちはクックと鳴きながらおじいさんの足元にすり寄っていく。
おじいさんは玄米をぱらぱらとまく。
鳩たちは首を振りながら歩いて拾いに行く。
おじいさんの顔が笑っていた。
真似してひょいっと放ってみる。
鳩がくるりと向きを変えて早足で拾いに行く。
ちょいちょいとついばむ。
可愛いかい?
……うん。
おじいさんのあったかい手が頭を撫でた。
もう一度もらってぱらぱらとまく。
首を振りながら拾ってくれる鳩。
どうしてやめないの?ってもう思わなかった。
遠い遠い昔におじいさんは居なくなってしまったけど
鳩たちは今日も羽を閉じて歩いている。
どうしてやめないの?って小さい子に訊かれたら
どうしてかな。って言って何粒かあげよう。
それは教えられるものじゃなくて見つけるものだから。
私はただ、おじいさんみたいに微笑んで。