第5話 はーふ。( 前世 猫 でした… )

文字数 1,000文字

 
     ◇
  
 なにしろ猫だったので自分の色は覚えていない。
 明るい(白っぽい?)毛並みだったのは確かだ。
 短毛種で、わりあいスリム?
 おなかだけ、ちょっとぽったりして。
 しっぽが長くて、よく動くのが自慢?だった。

 じぶんのからだが猫らしくほどよく動き。
 ちょっと長いしっぽを、
 決まったやりかたで、ゆるりゆらり。と波打たせて。
 ぱたん、あるいは、ぱたん…ばたん!と
 床を叩いて。
 長いおひげを、ぴくびく!と震わせる。
 だけで…
「…あ、怒ってる、怒ってる!」…と。
 ニンゲンたちを、畏れ入らせ。
 慌てて『ご機嫌とり』を『させる』ことができる…
 自分の姿に。

 じゅうぶん、満足していた…

     ◇

 家から外には出たことが(ほとんど)無かった、と思う。
 木造2階建ての、人間風に言わせると日本の『洋館』の。
 古くて落ち着いた、隠れ家の多い、いかにも猫の好みの。
 全世界で。

 いつだって、階段の下の定位置で。
 きちんと『猫正座』して。

「…ごはーーーーーん!」…と。

 猫語で、『 召喚呪文 』を叫べば。
 かならず、まっすぐにニンゲンが飛んできて。
 ごあんくれて、水くれて。
 なでなでしてくれて。
 褒め誉めしてくれて。

 全世界は、自分の思い通りに。
 何の危険もなく、憂いもなく…

 幸せな、猫生だった。


     ◇


 いわゆる『転生ごほうび回』というやつだったのだと思う。


     ◇


 一転して、反転して、今生は。

 どう考えても、優遇とも、好待遇とも、歓迎されてるとも、
 言い難く…(~”~#)…★

 ものごころ付いて以来、居心地の悪さしか、感じられない世界で。
(ーー#)★★

 おさないニンゲンだった私は。
 毎日毎日?
 よく、しょっちゅう。

「… おうち帰る~ッ!!!!」

 …と、叫んでは。
『 窓から外へ 』脱走しようとしたり。
 夕暮れの、街のまんなかで。
 『実の母』であるらしい、いじわるな人の手をふりきって。
 やみくもに逃亡? しようと、したりして…

「おうちここでしょ!」
 とか
「いま帰るところでしょ!」とか、

 叱られて、いたのだが…

『還りたい家』は、絶対に…

 ソコ、では、なかった。


     ◇


 後年。
 少しは成長して、歩いたり自転車に乗ったりして。
 自分ひとりで、遠出が。
 出来るようになると…

 まず。

 ほぼ、無意識にだが、探していたのが…

 やはり、その。

『 猫だった 時の。』
『 元 の 家 』だった…




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