序章 十四話 「親友を探して」

文字数 1,171文字

親友の姿を追い求め、幸哉は覚束ない足取りで戦場の跡を歩き続けた。つい数分ほど前までは平穏だった難民キャンプは硝煙の残り香を上げる砲弾の着弾跡がそこら中にでき、焼け火箸となった高床式住居があちこちで無惨な姿を見せていた。
まだ、硝煙と砂塵が立ち昇るキャンプの中を自分が先程まで捕らえられていたあばら屋まで戻った幸哉は、至近距離からの銃撃を受け、激しく損傷したNPOの死体を目にして、吐瀉物を吹き出しながらも、健二の姿を探した。難民達の死体とともに折り重なったNPOの死体の中には、この数日で幸哉が仲良くなった面々の死体もあり、それらの死に顔を見つける度、幸哉は胃の中の物を吐き出したが、死体の山の中で健二の姿だけは見つけられなかった。
「健二…、健二…。」
俺が巻き込んでしまった…。俺がズビエに行きたいなどと言わなければ、こんなことには…。
呆然とする意識の中、自責の念に駆られた幸哉はキャンプの別の場所を探そうと、走り出そうとしたが、その肩を後ろから掴んだ手に止められた。
「待て。」
幸哉の肩を掴んで、そう言ったのは先程の日本人兵士だった。
「友達が…。友達が…。」
茫然自失のまま、そう繰り返す幸哉に日本人兵士は緊迫した声で告げた。
「どうにもならない事はある。それよりも、政府軍の別部隊が接近中だ。すぐにここを出発する必要がある。」
日本人兵士の声は真剣だったが、幸哉は己の意思を変えるつもりは無かった。自分のために命の危険を冒してくれた親友を見つけるまでは幸哉はこの場所を離れるつもりは無かった。
「俺は友達を探します…。」
呆然としたまま、幸哉が返した返答に日本人兵士は深い溜め息をついた。その様子を後ろから見ていた白人の兵士が、
「放っておけよ。好きにさせろ。」
とぶっきらぼうな声で言ったが、日本人兵士は首を横に振って、異論を示した。
「政府軍は少数民族に協力するNPOを虐殺している…。放ってはおけない…。」
日本人兵士の言葉に幸哉は思わず聞き返した。
「NPOを…、虐殺…?」
信じられないという声色で発した言葉に日本人兵士は頷くと、幸哉の肩に手を置いた。
「だが、生きていれば、友達と再開できるチャンスもある。俺達について来い。」
そう言った日本人兵士は自分と傍らに立つ白人兵士の名前を紹介した。
「俺は狗井浩司、こいつはジョニー・エドゥアルドだ。お前の名前は?」
「戸賀…、戸賀幸哉です…。」
まだ何もかもが信じられない、呆然とする意識の中で自分の名前を告げた幸哉に、狗井浩司と名乗った日本人兵士は装備を整えながら約束するのだった。
「よし、幸哉。お前を絶対に安全な場所に連れて行ってやるからな。」
その言葉に頷いた幸哉の心中の決意にも変化が生じていた。
健二を探すためにも生きなければ…。
そう胸中に誓った幸哉は、出発に向けて、装備を整え始めた傭兵達の後に続くのだった。
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