第5話 きらきら

文字数 2,311文字

 翌日、学校に行くと、半数の女子が欠席していた。今日、光君も体調が悪いらしく休んでいて、私は一人で登校していたからなのか「おはよう」と声をかけてくれるクラスメイトがちらほらいた。
 担任の先生まで高熱で休みだ、と副担が言う。
「ちょっと人数が多いので、今日は授業は昼までで、お弁当食べて下校します。明日は学級閉鎖になります。明日以降はまた連絡します」と言った。
 昨日、灯君が何か休みがどうのこうの言っていたけど…と思いながら私は大分減ったクラスを眺める。休んでいる人の大半は私に攻撃的な人ばかりだった。移動教室も一人で行こうとしたら、声をかけてくれるクラスメイトがいた。
「川上さん、行こう。ごめん。なんか声をかけ難くて」と渡辺さんが言ってくれた。
「ううん。席も遠いし…」と私は言う。
「…でも明日から声をかけていい?」と聞いてくれる。
 横にいた中田さんが「明日はお休みって言ってたよ」と話に入ってくる。
「あ、じゃあ…まぁ、今から友達になっていい?」と渡辺さんが言ってくれて、私は平気なふりをしていたけど、すごく嬉しくて、涙が零れてしまった。
 せっかく声をかけてくれた二人を驚かせてしまったし、ごめんと謝らせてしまった。そしたらみんなが集まってしまって、何だかみんなに謝られた。
「ううん。謝らなくていい」と言ったものの、私は涙が零れて来て、なぜかつられて泣いてくれる子もいた。
 その日は女子みんなでお弁当を食べた。何だかこのクラスになって初めてほんわかとした雰囲気が流れる。男子も「今日、なんか雰囲気よくね?」と言って、笑っていた。
 そして初めて私は友達と一緒に帰ることが出来た。私たちは一カ月近く一緒だったけど、ほとんど初めてくらいの間柄だったから話すことがたくさんあった。

 学級閉鎖になって、担任も休んでいるというので、話し合いに行くと鼻息荒く、息込んでいたママは少し毒気が抜かれたものの「学級閉鎖でコトちゃんと一緒にいられる」と私をぎゅーっと抱きしめながら喜んでいた。
「ママは本当にコトが好きなんだね」とパパは少し寂しそうだった。
 それなのにママは空気が読めずに
「はい。大好きです」と大声で返事をしていた。
 だから私は小声で「パパが落ち込んでる」と言わなければいけなかった。
「あ、もちろん川上さんも大好きです」とママが付け加えると、パパの顔が簡単に明るくなる。
「聖ちゃんが大好きなハンバーグ作っちゃおうかな」
「も、もったいないです」と変に恐縮するから、私とパパは笑った。
 私はこの家族が大好きだ。本当のママと聖ママは普通に連絡している。何か学校行事がある時は交互に参加しようと決めているらしい。本当のママも好きだけど、私は美人なのに何だかすっとぼけている聖ママが大好きだ。

 夜になって、灯君から電話がかかってきた。私は部屋で図書館で借りた石の本を見ていた。世の中にはたくさんの石があって、宝石なんかもいろんな種類があるのだ、と眺めていた。
「もしもし? コトちゃん?」
 灯君と光君は声も似ているけれど、話し方が全然違う。灯君は少し間がある。
「灯君? 光君は元気になった?」
「うん。ご飯食べれるくらいは元気になったよ。明日は学校に行けると思うよ。でもよく僕だって分かったね」
「なんかね、ちょっとだけ間があるの」
「へぇ。自分では分かんないな」
「ふふふ。でも良かった。元気になって。うちのクラス大変だったんだよ。女子の半数くらい休んでたし、担任も休んでて…。あれって、灯君がしたの?」
「まさか。そんなことしてないよ。トラが追い返したものがそれぞれに返ってきただけだよ。でもね。注意して欲しいのは、その人たちが変わることがないってっこと。また学校に来たら、コトちゃんは嫌な思いをすると思う。人間は簡単に変わらないし、反省しないからね。変なものをまた生み出して送ってくるかも。だから辛くなったら、またいつでも言って」
「…うん。ありがとう。灯君。あのね、灯君の良さはたくさんあるの私は知ってるからね」
 私は灯君にもっと自分を好きになって欲しかった。
「ありがとう。伝わったよ」
 灯君には言葉じゃなくても分かるのだから、言わなくてもいいのかもしれないけど。
「うん。灯君は紳士だなっていつも思ってるから」と言うと、くすくす笑う。
「友達として、人間として、好きだよ」
 灯君の言葉が胸に沁みた。
「私も。尊敬してる。友達として、人間として」
「じゃあ、光が怒ってるから、電話変わるね」と言って、光君の声が聞こえた。
「コトちゃん、あの、いろいろごめん。明日は学校に行けるから」
 あぁ、光君の話し方には間がない。その代わり熱量を感じる。
「あ、ごめん。明日、うちのクラスは学級閉鎖で行かないの」と言うと「ええ」と声が裏返っていた。
 灯と光…。十子さん達はぴったりな名前をつけたな、と私は思った。
 数秒の間、光君は無言だったけど、振り絞るような声が聞こえる。
「…そんな」と打ちひしがれている様子まで目に浮かんだ。
「光君、大好きだから。誰かと比べなくていいよ。もし私が気になることがあれば、言うし。光くんも言って欲しい」
「ない。絶対、全然、ない」
「そうかなぁ。まぁ、いいや。今日はゆっくり休んでね。またね」と言って電話を切った。
 光君の「お休み」が終わって、良かったと思った。
 二人を比べることはしないけれど、私は二人ともが好きで、一緒にいて心地よかった。どうして光君を好きになったかと言われると、それは光君が好きだと言ってくれたからだ。
 その言葉がキラキラしてたから。光くんの笑顔と同じくらい眩しかった。
 そのまま石の本を眺める。綺麗な宝石を指で辿りながら…。
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