第1章 副反応への不安

文字数 5,108文字

ワクチンと陰謀論
Saven Satow
Aug. 28,2021

「沈黙とは、ルソーにとっては陰謀の単調な記号表現だが、共謀者たちにとっては全員一致で犠牲者に対して申し渡されていることなのだ」。
ミシェル・フーコー『ルソー対話への序文』

第1章 副版のへの不安
 新型コロナウイルス感染症のパンデミック終息に最も効果があるとされるのがワクチンである。ワクチンは感染しにくくさせたり、症状を軽くしたりする効用が認められる。人口の7割以上ア十分な抗体量を持っていれば、社会に集団免疫が形成される。ワクチンはその達成を早めると期待されている。そのため、各政府は接種率を挙げる政策を進めている。しかし、会場や病院に足を運ぶ人がいる反面、ワクチン接種をためらったり、拒否したりする人も少なくない。

 『NHK』は、2021年7月2日 4時01分 更新「ワクチン『接種したくない』11% 若い世代多く 全国大規模調査」において、そうした人々について次のように伝えている。

新型コロナウイルスのワクチンについて、国立精神・神経医療研究センターなどのグループが大規模なアンケート調査を行ったところ「接種したくない」と回答した人が11%に上ることが分かりました。
国立精神・神経医療研究センターなどのグループはことし2月、インターネットを通じてワクチン接種に関するアンケートを行い、全国の15歳から79歳までの2万3000人余りから得た回答を分析しました。
その結果、ワクチンを、
▽「接種したい」と回答したのは35.9%、
▽「様子を見てから接種したい」が52.8%だった一方で、
▽「接種したくない」が11.3%に上りました。
年代ごとに「接種したくない」と回答した人の割合を調べたところ、15歳から39歳までの若い世代ではおよそ15%だったのに対し、65歳から79歳までの高齢者ではおよそ6%で、若い世代のほうが2倍以上多かったということです。
また、接種したくない理由については、複数回答で、
▽「副反応が心配だから」が73.9%、
▽「あまり効果があると思わないから」が19.4%などとなりました。
国立精神・神経医療研究センターの大久保亮室長は「特に若い世代では、SNSなどの根拠のない情報で接種しないと決めるケースがみられる。厚生労働省のホームページなどで正しい情報を確認して、改めて考えてほしい」と話していました。

 こうした調査結果は時期によって変動するので、あくまでこの時点でのものである。ここでは「接種したい」を積極は、「様子を見てから接種したい」を慎重派、「摂取したくない」を消極派とそれぞれ呼ぶことにしよう。全体の3分の1強が積極は、2分の1強が慎重派、10分の1強が消極派である。慎重派が半数強であることに思想家や社会学者による大衆社会批判を思い出さずにいられない。消極派はメディア報道から想像されていた比率よりも少ないが、人口比を考えれば人数としては多くならざるを得ない。

 消極派の理由は副反応への不安が最も多い。慎重派は記されていないが、おそらく同様だろう。副反応を理由として接種に慎重・消極になることは理解できる。事実、倦怠感や頭痛、発熱などの軽い副反応は少なくなく、2回目の接種後に出やすいとされる。

 副反応に関する調査結果も専門機関から多く公表されている。一例として『NHK』2021年7月25日 6時20分更新「モデルナのワクチン 2回目接種後に4人に3人が発熱 厚労省」を引用しよう。

モデルナの新型コロナウイルスのワクチンについて、2回目の接種後は1回目より発熱や頭痛などの症状が多く見られたことが分かりました。4人に3人が発熱していたということで、国の研究班は症状がおさまるまで安静にしてほしいと呼びかけています。
厚生労働省の研究班は、モデルナのワクチンの接種を受けた自衛隊員のうち、1回目の接種を受けたおよそ5200人と、2回目を受けたおよそ1000人について、接種後の症状を調査しました。
その結果、37度5分以上の「発熱」が見られた人の割合は、
▽1回目の接種の翌日が4.7%、翌々日が2.2%だったのに対し、
▽2回目の翌日は75.7%、翌々日は22.3%でした。
また、「けん怠感」は
▽1回目の接種の翌日が20.9%、翌々日が14.1%だったのに対し、
▽2回目の翌日は84.7%で翌々日が47.6%。
「頭痛」は
▽1回目の接種の翌日が11.7%、翌々日が8.5%で、
▽2回目の翌日は63.8%、翌々日は38.7%でした。
女性のほうが頻度が高い傾向が見られたということです。
国の研究班の代表で、順天堂大学医学部の伊藤澄信客員教授は「接種から3日後には症状がおさまっていることが多いが、発熱は40度に達することもある。特に2回目の接種後は安静にして、翌々日ごろまでは仕事や学校を休むことも検討してほしい」としています。

 かなりの確率で副反応が出ていることがわかる。しかも、中には40度を超える発熱など日常生活に支障をきたす場合もある。インフルエンザワクチンと比べて、全般的に、副反応の発生頻度・程度が大きい。ただし、それらはあくまで一時的な体調不良で、短期間で収まる。

 新型コロナウイルスワクチンを実施するため、2020年の臨時国会において予防接種法が改正される。それにより、このワクチンは臨時接種の特例と位置づけられる。接種は努力義務で、強制はない。厚生労働省が指示、都道府県が協力の上で、市区町村が接種を実施する。費用は国の全額負担である。健康被害が生じた場合、企業の損害賠償を国が肩代わりできる琴で救済措置とする。

 予防接種法において、予防接種は定期接種・臨時接種・任意接種の三つに分けられる。特定年齢に達した際に子どもが受けるワクチンは大部分が定期接種で、おたふくかぜワクチンなどが任意接種に当たる。定期接種には努力義務が課されているが、任意接種にはない。臨時接種は、これらと違い、感染症流行の際に臨時に実施されるワクチン接種である。この接種には努力義務を課すものと課さないものがある。新型コロナウイルス感染症が前者、弱毒型インフルエンザは後者である。強制はしないものの、政府としては可能な限り新型コロナウイルスワクチン接種することを人々に求めている。

 極めて低い確率ながら、副反応により健康被害が生じる場合もある。その際、解製予防接種法に基づき、政府が事実上補償することになっている。そうした例について、『NHK』は2021年8月20日 8時08分更新「“ワクチン接種で副反応” 29人を初めて救済認定 医療費支給へ」に置いて次のように報じている。

新型コロナのワクチン接種によってアナフィラキシーなどの重篤な副反応が起きた可能性が否定できないとして、厚生労働省は20代以上の男女29人に、初めて法律に基づき医療費などを支給することを決めました。
新型コロナのワクチン接種では、副反応が原因で障害が残ったり、医療機関での治療が必になったりした場合、予防接種法上の救済対象となり、医療費の自己負担分や、月額最大で3万7000円の医療手当などが支給されます。
19日、厚生労働省は専門家でつくる審査会を非公開で開いて、救済の認定を求めている41人について、対象になるかを審査しました。
その結果、20代から60代の男女合わせて29人について、診断書や症状の経過などから、「接種との因果関係が否定できない」として救済の対象とすることを決めました。
症状の内訳は
▽アナフィラキシーやアナフィラキシーに似た症状が合わせて23人、
▽急性アレルギー反応が6人となっています。
接種に使われたワクチンの種類は公表されていません。
29人には今後、自治体を通じて医療費や医療手当が支給され、残る12人については、引き続き接種との因果関係を審査するということです。
新型コロナのワクチン接種を巡って救済認定が行われるのは初めてで、厚生労働省は、今後も順次、審査を行うことにしています。

 重篤な副反応は極めて低い確率であるが、接種数が非常に多いため、一定数は出てしまう。こういう報道に接すると、その万が一に自分が当たったら嫌だと接種をためらったり、避けたりしたくなる気持ちはわかる。いくら補償があるとしても、そうした目に遭いたくないというものだ。

 ところが、日本政府はこの補償に後ろ向きで、『NHK』2021年8月28日 6時13分更新「ワクチン接種後死亡1002人『接種と因果関係』結論づけられず』によると、いつものごとく出さない理由を探しているようにさえ見える。これでは予防接種への意欲がそがれてしまう。この姿勢は集団免疫の迅速な実現という目的に反している。接種後の一定期間内に亡くなったなら、明らかに別の死因が特定される場合を除き、「因果関係」が立証されなくても保証するようにすべきだ。

 副反応の不快・苦痛と感染・発症した際のそれをリスク計算した場合、ワクチン接種した方が効用は大きい。自分だけを考えたとしても、自主隔離や自宅療養を余儀なくされ、症状が重くなれば死ぬ危険性もあり、治ったと思っても後遺症に苦しめられる。それに、他者への危害や医療資源のひっ迫にもつながりかねない。接種することが合理的選択だ。先のアンケート調査でも、リスクが高いとされる高齢者層が低いとされる低年齢層射よりも接種に積極的である。社会の大部分がそう合理的に計算してワクチン接種、人口の7割以上が十分な抗体量を持ち、集団免疫が形成される。ワクチン接種の真の目的は、その時、達成される。

 実際、2回接種すれば、症状の軽減は言うに及ばず、感染リスクも大幅に下がると『NHK』は、2021年8月20日 17時44分更新「『ワクチン2回接種』で感染は未接種者の“約17分の1” 厚労省」において、次のように伝えている。

新型コロナウイルスに感染した人のワクチンの接種状況を厚生労働省が調べたところ、2回接種した人の感染は接種していない人に比べておよそ17分の1と大幅に少なくなっていることが分かりました。
これは厚生労働省が8月18日の専門家会合で示したもので、8月10日から12日の3日間に報告された全国の感染者5万7293人のワクチンの接種歴を分析しました。
その結果、感染した人の82%にあたる4万7132人が1回もワクチンを接種していませんでした。
人口10万当たりで新規感染者数を比べると
▽ワクチンを接種していない人は67.6人
▽1回目のみ接種していた人は22.7人
▽2回接種した人は4.0人で
2回接種した人は接種していない人に比べておよそ17分の1になっていたということです。
また、年代別にみてみますと人口10万当たりの新規感染者数は
65歳未満では
▽接種していない人で69.7人
▽2回接種した人では7.4人
65歳以上では
▽接種していない人で31.1人
▽2回接種した人では2.3人と
なっていました。
ワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は「どの年齢層でもワクチンの効果があることを示すデータで、希望する人にはできるだけ早く2回接種する必要がある。年齢別の効果はさらに詳しく分析するべきだ」と話していました。

 未接種者に比べて、2回接種者の感染の可能性は大幅に低い。しかも、いずれの年齢層でも同様に効果を示している。副反応は不安であるけれども、個人にとってワクチンを受けるメリットは大きい。確かに、接種済みであっても感染する可能性はある。しかし、接種率が高くなれば、感染者と濃厚接触する機会が減るので、その事態は起こりにくい。

 注意しなければならないことがある。『時事通信』2021年08月15日07時11分更新「対コロナ『集団免疫』困難 ワクチン効果は確実―規制解除の英国」によると、デルタ株の登場により集団免疫が困難であるとの見方が示されている。デルタ株は感染力が強い。加えて、ワクチン接種後も感染する可能性がある。そのため、ワクチン接種率が目標の人口の7割に達したとしても、感染対策を続ける必要がある。

 感染や重症化のリスクを下げるために、ワクチン接種することが合理的だと個人が選択する。しかし、人口の多くが同様の行動をしても、集団免疫は形成されない。デルタ株の他に変異も考えられるので、ワクチン接種は2回で完了ではなく、今後も続ける必要がある。ワクチン接種が感染や重症化のリスクを下げると、医療資源の圧迫は減る。季節性インフルエンザに近い疾病にすることが目標の設定される。
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