第3話 世界と国のお話

文字数 5,683文字

 目覚めて日が経過すると、ボクは始めのように数分から一時間で体力が切れる事も無くなり、動かすと強い痛みを感じるが、長時間起きている事もできるように回復している。

 初めは固形物とは異なる食事も次第に小さく切り分けられた固形物になり、食事の美味しさに涙が出てしまった程だ。

 とは言っても腕を動かすと痛みを感じる為、使用人のメイドさんに恥ずかしいが手伝ってもらい食事をする。そう、記憶がなくても食べさせてもらうのは恥ずかしいと感じてしまうのだ。

 なのに…何故かクラウが食事の時間になると部屋まで来るように変わり、テーブルまで運び入れて食事をする流れとなったのだ。

 気持ちを無碍にはできず、メイドさんも諦めてというような表情をする。回復の為には必要な事だからと、口元まで運ばれる度食べる動作を繰り返すしかないのだ。

 そんな流れで毎日の食事は繰り返す。

 できる事が殆どない為仕方がない、一日の中で食事以外となればクラウとのお話ぐらいで、目覚めた直後に比べて話し合った事で親しくなった。

 早々にボクが運ばれた経緯や場所などを確認したかったのだが、ボクの事とは別で中央領地に報告する事があり、その間クラウが話し相手になってくれている。

 ボクが話せる事は何もない為、クラウの話を聞くことが主、記憶が戻るかもと身の回りの話から好きな事、今日の出来事、過去の出来事と話す事は好きなようで、メイドさんが止めに入るまでは話題が尽きず楽しげに微笑み教えてくれる。

 身体が回復するまで話をしてくれるクラウに申し訳ないと思ったが、自分自身の復習にも繋がるようで、どうやら学園に入学するまでの間に領主の娘として、宿る紋章に恥じない知識と力をつける必要があるそうだ。

 話を聞いてもいまいち記憶に繋がらないが、今日は趣味趣向ではなく、現在の場所と言った聞き出しにくい世界の話を聞いている。

 世界の話となれば地名で思い出せる事もあるのでは?と聞いているのだが、国の名前が一向に出てこない為、ボクは確認をしようと思う。

「えっと、国の名前を聞いてもいいかな?」

 ごく当たり前の事を聞いたつもりだったのだ。

「国ですか?国と言うのは何ですか?」

 そんな言葉が帰ってきてボクは思考を止めた。

 知識の中に存在する国、人が集まり群れを成す決められた一族が継承する場合や特定の中より選ばれる場合、力を証明して得る場合など、一致団結する事で大きな力を発揮する様々な種類の存在、一括りにくに国と言われてもわからない場合も考えられる為、ボクは意味を簡単に説明した。

 ボクの話を聞いて、クラウは人差し指を口元へ当てながら「うーん」と考えるように唸る。少し後にパッと顔が明るく理解できたように「国とよばれているのかはわかりませんが…」と前置きを残し、人や亜人など含めて暮らす世界の分かれ方を話してくれたのだ。

 世界に五つの領地があり、中心に中央領地、その周囲を四つの領地が囲む円形に近い、国という枠組みは形式的には存在せず、各領地は領民により支えられるようだ。

 領地はそれぞれ障壁で分けられ、それを管理するのが中央領地、全ての領地は中央領地を通過して他領に移動できる少し面倒な仕組みのようだ。各領地それぞれ特産品がある事、中央領地を経由する際にお金がかかる事、周囲の領地とは異なり土地が少ない中央領地は特産品がない為通行料で維持しているそうだ。

 それと同時に聞いた話が領地の外側、障壁にて外界と隔絶しているようで、危険な魔物も多く存在する事や未だ解明できない謎も多く、定期的に遠征を行うが魔物の被害を抑えるために必要な時以外は分け隔てているという事だ。

 そう、私の知識では国の中に領地を管理する領主貴族が存在していたが、現在までの学問では国という扱いはされておらず、領地だけがある。それでも中央領地が周りの領地を守っているなら実質的には国と変わらない気もする。しかし、何か違う、ボクの知る知識とは噛み合わないのだ。

 自分が知らないだけかもしれないと、後で確認をしてくれるようで、それ次第になるが仮の話、国という名称が無かったとしたら、その知識を知っているボクはこの世界とは違う可能性も考えられ、想像するだけでも怖く感じてしまう。

 国だけではなく貴族の扱いも無いようで、クラウは同じように貴族?とハテナを浮かべていた。

 ボクはボクが知る言葉が存在しない怖さと、国や貴族が存在しないという事を聞き、安心した。

 そう、国を聞いた時はそれほどでも無いが、貴族の話を聞いた時、心の底から湧き上がる真っ暗な憤りに塗りつぶされそうな怒りが膨れ上がる。
 何れにせよ、確認してもらえるので、それを聞き後々考えれば良いと思った。

 色々気になる…話を聞いた限り領地が国と同じような扱いに感じたけど、これらも含めて領主様に聞いてみるしかなさそうだね。

 ボクはそう考えていると、どうやら真剣に考えてしまったようで大丈夫かと心配された。

「ごめん、少し考えすぎてたかな、話の続き聞かせて欲しいな、声を聞くだけでホッと安らぐし、それ以上に記憶が思い出せるかもだからね」

 心配させてしまったと、表情を一度和らげ少し笑みを浮かべつつ話の続きを聞きたいと伝えた。

「ッ!!も、もう!揶揄わないで!」

 頬を膨らませボクの言葉にそう返すと、目線を逸らすように横を向いてしまった。

 むむ、人との付き合いが難しいよ、知識だけあってもダメだってだんだん分かったかも…

 ボクはそんな事を考え反省したのだ。

 若干上擦る声で領地の話を補完してくる。怒っているではなく少し嬉しそうな声だが、聞くべきではないと少し成長した。

 あくまで領地の補完話、中央領地の外側は基本属性の四つに分かれ、地水火風の力を宿す紋章を領主の証とするようで、皆が持つ魔力、魔力を使用する魔法、それとは違う特別な力が領主一族の紋章術、力も役割も異なるようで火の場合は身体に力を宿し圧倒的な戦闘力を得るそうだ。

 紋章は身体に宿り、発動しない時も薄ら色が付き目視で分かると、袖を少し捲るとボクに右腕を見せてくれた。

 知識に無い紋章、火に関係する模様は不思議と知識に浮かび上がり、その何でもなく火をモチーフに剣と盾、そして外周に竜なのか似た何かなのか薄い赤色で刻まれていたのだ。

 興味を感じた事があり、紋章は後で付けたり何かで得るという後発的な継承と違う生まれた時より宿す力の証明書と等しい、発動すると色が濃く、相応の力を得る。紋章の位置で発動する力に差がない為、サイズも位置も関係ないようだ。

 初めて聞く未知の力…と考えてみたが、知らないことの方が多いと考えるべきで、話を聞けば聞くほど思考が活性化するような明晰感を感じる。

 代々伝わる力は秘匿という事ではない為、ボクにもしっかり隠さず話してくれる。

 魔法は知識に意味合いを記録していたが、細かな事を知らず、世界の脅威となる魔物や魔獣に抗う奇跡の力、今も勉強中との事で詳しくは不明のようで、魔術も儀式めいた力と変わらない様だ。

 サラッと流された魔物と魔獣、世界には自然と共に魔力が満ち溢れ、人も含めて生まれながらに魔力を獲得する。これは魔力で魔力による汚染を防ぐ目的となり、紡がれた歴史が獲得した力と、奇跡の発動に魔力は必要不可欠でも濃度次第で猛毒となる。中央領地が全てを覆う障壁に軽減する力があり、防ぐ目的で外を囲む。獣も魔力を持つのだが、満ちている魔力に汚染された獣は凶暴化する為それらを魔獣と呼び、魔法を自在に扱う凶悪な生物や現象を魔物と呼ぶそうだ。

 ものすごく気になるが下手に聞けない内容なので、少し状況を見極めつつ聞くか隠すかを考えた方が良さそうだと、ボクは考えを飲み込み隠す。

 そう、国と同じでボクの知る限り魔力は等しく与えられず、魔族が持つ事象を歪める力、それに抗う為人は国を作り…えっ?…何これ、何…

 頭の中で無理やり知識が浮かび勝手に読み上げるような気持ち悪さ、先程国の話を聞いた時よりもっともっと濃い知識、それはまるで忘れてはならない使命のような記録に根付く呪い。話を聞いている時に頭の中で照らし合わせる知識と違う、考えを止めようとしても無理やり読ませるような強い吐き気と恐れ、理解ができないからこそ怖く気持ち悪い…

「…、…、…!…!!」

 誰かが何かを言っている…

 うまく聞こえない、誰だろ、知ってる人?

 頭がモヤモヤに霞が覆う気分、苦しい、呼吸も苦しい、うまく息が吸えない苦しさだ。

「たすけて…」

 ボクは錯乱しそうな考えの中で呪いのような言葉を弱々しく声に出した。

 パチンッ!!

 ボクが声を発した後、身体が揺すられる感覚の後、頬に痛みを感じた。

「かはっ!!ぁ、ありがと…」

 突然の事で驚いたが、何かボクがボクではない何かに変わりそうな怖さから助かったのだ。

 ボクは戻ってこれた事に感謝をすると、乱れて荒くなる呼吸を落ち着かせた。
 
「ごめん!」

 視界がハッキリするとクラウは涙を浮かべて悲しそうな表情で謝り身体を前のめりに乗り出すと、ボクは優しく抱きしめられたのだ。

「うぇっ!?」

 ボクは助けてもらったはずが、何故かクラウが謝り想定外の抱きしめ行為をした事で、驚き言葉にならないような声を出し、ベッドの上という逃げ場のない所でアタフタ手を動かしていた。

 ズキズキ何かを全身に刺される痛みだ。

 腕を動かすだけでも痛いから気をつけてたけど咄嗟とはいえ無理に動いてる…

 それ以上に傷が深かったと言っても、腕も傷が治りにくいし全体的に遅い気がする。いや、今はそれより落ち着いてもらわないとだよね!

 グッと力を込め、手でクラウの肩を触れ、直前の事から頬を叩いた事に対してと考え、落ち着いて欲しいと伝える。

「大丈夫だよ!だから、落ち着いて、それと…頬は痛くないけど、抱きつかれると痛くて…」

 驚きの反動で手が動いたが、正直痛いズキズキと神経を伸ばすように、抱きつかれた場所は泣き叫びたい痛みだが、それを抑えゆっくり話したのだ。

「わ、私!突然ごめんなさい!ぁぁ!ど、どうしよ、血が!何でこんな事、ごめんなさい!!」

 ボクの言葉でハッと気がつき、クラウは身体の姿勢を戻し咄嗟の事をと謝るのだが、離れた後抱きつき触れた手と服の一部に血が付いていた為、誰の血なのか理解すると涙を流し謝り続ける。

 うぁっ…言われるまで気が付かなかったけど、血が滲んでる。ボクの身体より、クラウの服を汚しちゃった方が問題だよね。

 こんな時なんて言えば、考えようにも痛みが酷い、気を緩めれば泣き叫びそう、とりあえず…

「落ち着いて、大丈夫だからね、それよりボクの血が付いて、ごめんね。ちょっと眠らせて欲しいかな、お願い…」

 ボクはそう言うと、ベッドに身体を預けて眠りについたのだ。

 悪夢のような夢は見えなくなった気がする。

 夢は夢でしかないから覚えていないだけかも知れないけど、それでも気持ち的に穏やかなのは良い事だと思っている。

 誰が殺される夢、誰かと誰かが話し合う夢、ボクという存在が曖昧に感じる夢、それらと異なる夢がある。それは無、何も見えたり身体を動かせたりは一切しないけど、目覚めた後も考えが薄れにくい点と起きていた時の出来事を覚えて考える利点、不気味な事だが活用できるならと考えを纏める時に利用させてもらう。
 
 ボクは記憶の整理をしているのでは?と考えた何もない夢の中で新たに知った話を思い返す。

 詳しくないけど国や貴族という枠組みがない世界、その代わりに五つの領地に分かれて管理、中でも特殊なのは中心に位置する中央領地、ここだけは他より小さく名産品も存在せず、役割として領地と領地を分ける障壁の維持、各領地の外側も同様の障壁があり、違う領地に移動するためには面倒でも中央領地を経由する必要がある。

 思い返しても中央領地がある意味力を持っていると考えるべきだろう。

 聞いて教えてもらえるか分からないけど、外側は話を聞く限り濃い魔力による魔物や魔獣を退ける為の障壁だろう。なら、各領地を障壁で分ける理由は?前提の知識がなければ引っかからない事もボクは国や貴族の知識を持っている。領地と領地の争いを防ぐためと考えるのが自然、国同士は同じ人間同士でも争い奪う、貴族も他者から欲しいものを奪うし気に入らなければ命も奪う。

 表向きは手を取り合ったとしても裏では異なるとボクは何故か知識がある。

 クラウの話を聞いた限りは領主の人柄としてボクの知識で知る貴族とは違う。常に問題があれば足を運び解消する領主、実際ボクも助けてもらったことや治療も含めて衣食住を与えてくれている。詳しく話を聞ければ良いけど…タイミング悪く領地から離れている事を聞いた。

 その内容も少し知った。

 領地の外側に魔力の歪みが発生した事が発端で、歪みは様々な要因から起きる。大半は魔力が濃くなる事で魔物や魔獣の発生、それに釣られて前から存在している魔物や魔獣が餌を求め集まる。一箇所に集まると魔力が乱れやすく、それ抜きだとしても争いが発生する為危険だと、互いに喰らう事で力を増し、最悪の場合は障壁を破られる可能性もあり得る為、討伐遠征に領主自ら騎士団を連れて向かった事だった。

 クラウはその目的と予定では一ヶ月の遠征が半月で終わり戻ってきた事、そして領地の外の外界にてボクが倒れていた事だ。

 外界の事を詳しく知るには領主様に聞くしかない、領内とは危険性が違う場所として詳しく知らないとクラウは言ったからだ。

 今日聞いた領地の話も含めてしっかり頭の中に、今度は記憶が無くならないようにと刻みつけるよう覚えるしかないのだ。

 ボク自身の事がボク自身分からないのは歯痒さと怖さ、知りたいと思う気持ちと知ったら後悔する気持ちが合わさっている。特に悪夢のような出来事、夢だからそう見えたのならそれで良い、あれが現実だったならと考えてしまうのはとても怖い、何故ならボクが生きている前提の場合、あの場で惨殺を行った一人と考えるのが自然だから…
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登場人物紹介

クラウディア=リースヴァルド


五大領地が一つ火を継承するリースヴァルド領主の娘、受け継がれた紋章は右腕に宿り薄い赤色の髪と眼を持つ優しい少女、代々受け継ぐ剣技と魔法の鍛錬を日々行うが座学などは好きではない為、実は見た目と違う脳筋思考、考えるより身体を動かすという行動の結果何度か窮地に立つ事も…

遠征から帰ってきた父に年代が近い子供が怪我をしたと知り、目を逸らさない条件で治療を立ち会う。その過程で服を着せ替える父が固まり、様子を見ると男の子ではなく怪我をした子は女の子だった。何か思うことがありそれ以降は毎日目が覚めるまで鍛錬の合間に日々の話をし続け意識が戻るのを待つ。

主人公?*アイコンは未定です。


一人称はボクと頭に浮かび、それ以降使い続ける。


気がついた時は傷だらけで死にかけていた。更に記憶消失が起きて自分自身が何者かも分からず死ぬのは嫌だと足掻き生き延びる選択をする。

運良く助けてもらうが傷が深く治るには時間がかかる。その間面倒を見てもらえるようで思い出せない記憶と知識の記録に悩みつつ自分を知りたいと決意を固めた。


救出時は薄い緑の短髪、目は右が髪と同じ薄い緑、左は薄い青の左右色が違う。まつ毛はフサフサ系、そこまで身長は高くない、血まみれで着ていた服も男の子様だった為、勘違いされていたが、実は女の子だった。

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