第1話 突然の目覚め 記憶の消失?
文字数 2,346文字
靄がかかるように見えにくい視界、初めは数滴顔に落ちた冷たい粒、それを雨粒と理解するには時間を要しなかった。
冷たさに熱を奪われ、見えにくい視界も分かり始めると、次第に強まる全身の痛み、雨粒の音に掻き消される呻き声は誰の声?
夢でも見ているのかと理解できない状況に目を閉じたくなるが、夢ではないと痛みが現実に引き戻すのだ。
冷たい雨粒、痛む身体、痛みは一時的な熱を生み出すが流れ出る血は同時に熱を奪っていく、全身の刺し傷だけではなく腹部は抉られ見ることすら憚る怪我をしていた。
誰が?
誰を?
そう、何故こんな怪我を負っているのか、何が起きたのか、一切わからず、それだけではないボクと一人称を口にしている事だけ思い出せても他の事、名前も生まれも、此処が何処なのかも何一つとして思い出せない状況だった。
思い出そうとしても霞のように消え、傷の痛みで思考が鈍り、身動きすらできない状況では冷たくなり動かなくなるのも時間の問題だった。
正直言うなら、ボク自身の事を何一つとして知らないからこそ未練もなく、死ぬという結果も怖くないのだが、それはあくまで思い出せないからであり、これまで生きていたからこそ、今ここに存在している。ならば、思い出せずとして死ぬのは嫌だと強く考えた。
死ぬのが怖いではない、何一つとして思い出せずに死ぬのは嫌なのだ。
結果的に同じ意味に繋がるのだが、それでも僅かでも生き抜く気持ちが芽生え、身体は意思に従うような力を送る。
仰向けで気がつき、初めに何度か起きあがろうと試みたが、強い痛みに涙を流し動きを止めた。
今回は生きるという目指すべき目的があり、痛みや地面を赤く染める血の流れに負けず、歯を食いしばりゆっくり起き上がる。
雨の冷たさを感じるならば、まだ生きている。
一歩進むだけで痛みに意識が削がれそうだと感じつつ、せめて木下にと気合いで進む。
「だ、誰か…ボクは此処にいるよ…助けて!」
何処にいるか分からず、周囲に人がいるのかも分からない状況だが、声を出さずして自ら助かる術もなく、一種の賭けと等しい全力で言葉を発したのだった。
後何度か声を出そうと考えたが、痛みで難しく、なんでボクがこんな目にあっているのかと痛みも合わさり涙が流れてしまった。
泣いてしまうことで呼吸も乱れ、咳き込むと血が地面に飛び散る。
記憶がなくても一般的な知識は残っている為、血が出たとなれば体内の傷も深そうだと、そんな事を考えてしまうと、これまで意識を向けなかったことで痛みを無視していた箇所が次々と痛み始めてしまったのだ。
悲しく涙が止まらない、繰り返す咳と流れる血液、呼吸は乱れ身体は冷たくなり始める。
何故、どうして?
問いかけても答えが返るはずもなく、視界がボヤけてしまう。
瞳が閉ざされる最後の瞬間、ボクに近寄る何かが見えた。
例え獣でも仕方がない、出来ることはやったよねとボクは頬を伝う涙の感覚を最後に意識を手放してしまったのだ。
朦朧とする意識、曖昧な感覚、自分自身ではない特殊な視点、それはすぐに夢だと気がつけた。
本来なら夢と気がつくのは難しいが、ボクには記憶がない事を覚えていた為、最後の光景とは違う景色に夢だと気がつけたのだろう。
相手の顔はよく見えないが、ボクの周りにも数人集まり、何かの宴なのか一度に飲み物を飲む。その後夢を見ているボクは全身の熱さと痛み、苦しさを強く感じ、それは周りの人も同じなようで床に苦しそうに倒れていた。
目の前にいた者に手を伸ばすが、その手は握られず、代わりに剣で手を突き刺され、カッと熱い感覚を感じてしまう。
その後は曖昧な飛び飛びの様子、夢と気が付いたからこそ冷静に考えられる滅多刺し、それを理解できるということは生きている事で初めに突き刺された手を事切れる直前のボクにわざと見せつけるような位置で腕が切断されたのだ。
痛みをまともに感じ取れない終わり間近の感覚、熱いという熱の感覚のみしかなく、切り落とされ飛び散る血に見惚れてしまう。
これは夢だろうか?
間違いなく夢なのだが、不思議な光景に夢特有の曖昧さが合わさり思考は鈍くなる。
夢ではなく現実に起きたのならば、間違いなく言えることは生きているはずがない事、ボクがボクを認識したあの雨の中、確かに身体中傷ついていたが腕は繋がっていた。
完全に切り落とされたら繋ぎ合わせても動かないことは記憶がない今でも理解できる。
夢に意味を考える方がバカらしく思えるのだが、そんな風に考えなければボクはボクを保てないような気がしたのだ。
身体が熱い…痛い…苦しい…
「ぅぁ…うぐっ!!ぁ…」
ボクは魘される様に言葉を発しつつ目を覚ました。
おそらく目を覚ましたと思ったが正しく、ほんの一瞬見えた視界は屋外ではなく、白く綺麗な天上が見えて同時に意識を失った。
そんな覚醒と眠りを繰り返し、時々ボクに囁くような声が聞こえるようだった。
ハッキリとは分からないが、毎日を教えてくれるような曖昧な感覚の中で部分的に理解できるのは今日は良いことがあったとか、綺麗な花が咲いたから部屋に飾るとか、これは過去の記憶なのかそれとも、と考えるたびに思考が乱れ考えていた事は霧散する。それの繰り返しで時間感覚すら曖昧な世界は出口のない迷路に閉じ込められたような心細さを感じ始めた。
いつ出られるの…時間はどれだけたった?
仮に肉体が死を迎え、この無限に等しい無の牢獄で永久的な地獄を見ているのではないかと時々考えてしまう。その考えすら長くは続かず一定起きに霧散して作り直される夢の感覚、途中でリセットされるからこそ、心が保てるのかもしれない、そう考えると一種の自己防衛なのかと時々考え、そして消えていくのだ。
冷たさに熱を奪われ、見えにくい視界も分かり始めると、次第に強まる全身の痛み、雨粒の音に掻き消される呻き声は誰の声?
夢でも見ているのかと理解できない状況に目を閉じたくなるが、夢ではないと痛みが現実に引き戻すのだ。
冷たい雨粒、痛む身体、痛みは一時的な熱を生み出すが流れ出る血は同時に熱を奪っていく、全身の刺し傷だけではなく腹部は抉られ見ることすら憚る怪我をしていた。
誰が?
誰を?
そう、何故こんな怪我を負っているのか、何が起きたのか、一切わからず、それだけではないボクと一人称を口にしている事だけ思い出せても他の事、名前も生まれも、此処が何処なのかも何一つとして思い出せない状況だった。
思い出そうとしても霞のように消え、傷の痛みで思考が鈍り、身動きすらできない状況では冷たくなり動かなくなるのも時間の問題だった。
正直言うなら、ボク自身の事を何一つとして知らないからこそ未練もなく、死ぬという結果も怖くないのだが、それはあくまで思い出せないからであり、これまで生きていたからこそ、今ここに存在している。ならば、思い出せずとして死ぬのは嫌だと強く考えた。
死ぬのが怖いではない、何一つとして思い出せずに死ぬのは嫌なのだ。
結果的に同じ意味に繋がるのだが、それでも僅かでも生き抜く気持ちが芽生え、身体は意思に従うような力を送る。
仰向けで気がつき、初めに何度か起きあがろうと試みたが、強い痛みに涙を流し動きを止めた。
今回は生きるという目指すべき目的があり、痛みや地面を赤く染める血の流れに負けず、歯を食いしばりゆっくり起き上がる。
雨の冷たさを感じるならば、まだ生きている。
一歩進むだけで痛みに意識が削がれそうだと感じつつ、せめて木下にと気合いで進む。
「だ、誰か…ボクは此処にいるよ…助けて!」
何処にいるか分からず、周囲に人がいるのかも分からない状況だが、声を出さずして自ら助かる術もなく、一種の賭けと等しい全力で言葉を発したのだった。
後何度か声を出そうと考えたが、痛みで難しく、なんでボクがこんな目にあっているのかと痛みも合わさり涙が流れてしまった。
泣いてしまうことで呼吸も乱れ、咳き込むと血が地面に飛び散る。
記憶がなくても一般的な知識は残っている為、血が出たとなれば体内の傷も深そうだと、そんな事を考えてしまうと、これまで意識を向けなかったことで痛みを無視していた箇所が次々と痛み始めてしまったのだ。
悲しく涙が止まらない、繰り返す咳と流れる血液、呼吸は乱れ身体は冷たくなり始める。
何故、どうして?
問いかけても答えが返るはずもなく、視界がボヤけてしまう。
瞳が閉ざされる最後の瞬間、ボクに近寄る何かが見えた。
例え獣でも仕方がない、出来ることはやったよねとボクは頬を伝う涙の感覚を最後に意識を手放してしまったのだ。
朦朧とする意識、曖昧な感覚、自分自身ではない特殊な視点、それはすぐに夢だと気がつけた。
本来なら夢と気がつくのは難しいが、ボクには記憶がない事を覚えていた為、最後の光景とは違う景色に夢だと気がつけたのだろう。
相手の顔はよく見えないが、ボクの周りにも数人集まり、何かの宴なのか一度に飲み物を飲む。その後夢を見ているボクは全身の熱さと痛み、苦しさを強く感じ、それは周りの人も同じなようで床に苦しそうに倒れていた。
目の前にいた者に手を伸ばすが、その手は握られず、代わりに剣で手を突き刺され、カッと熱い感覚を感じてしまう。
その後は曖昧な飛び飛びの様子、夢と気が付いたからこそ冷静に考えられる滅多刺し、それを理解できるということは生きている事で初めに突き刺された手を事切れる直前のボクにわざと見せつけるような位置で腕が切断されたのだ。
痛みをまともに感じ取れない終わり間近の感覚、熱いという熱の感覚のみしかなく、切り落とされ飛び散る血に見惚れてしまう。
これは夢だろうか?
間違いなく夢なのだが、不思議な光景に夢特有の曖昧さが合わさり思考は鈍くなる。
夢ではなく現実に起きたのならば、間違いなく言えることは生きているはずがない事、ボクがボクを認識したあの雨の中、確かに身体中傷ついていたが腕は繋がっていた。
完全に切り落とされたら繋ぎ合わせても動かないことは記憶がない今でも理解できる。
夢に意味を考える方がバカらしく思えるのだが、そんな風に考えなければボクはボクを保てないような気がしたのだ。
身体が熱い…痛い…苦しい…
「ぅぁ…うぐっ!!ぁ…」
ボクは魘される様に言葉を発しつつ目を覚ました。
おそらく目を覚ましたと思ったが正しく、ほんの一瞬見えた視界は屋外ではなく、白く綺麗な天上が見えて同時に意識を失った。
そんな覚醒と眠りを繰り返し、時々ボクに囁くような声が聞こえるようだった。
ハッキリとは分からないが、毎日を教えてくれるような曖昧な感覚の中で部分的に理解できるのは今日は良いことがあったとか、綺麗な花が咲いたから部屋に飾るとか、これは過去の記憶なのかそれとも、と考えるたびに思考が乱れ考えていた事は霧散する。それの繰り返しで時間感覚すら曖昧な世界は出口のない迷路に閉じ込められたような心細さを感じ始めた。
いつ出られるの…時間はどれだけたった?
仮に肉体が死を迎え、この無限に等しい無の牢獄で永久的な地獄を見ているのではないかと時々考えてしまう。その考えすら長くは続かず一定起きに霧散して作り直される夢の感覚、途中でリセットされるからこそ、心が保てるのかもしれない、そう考えると一種の自己防衛なのかと時々考え、そして消えていくのだ。