第1話 薄情者

文字数 1,060文字

 ()()とは、どんな意味か知っているだろうか?

「人情味に欠け、思いやりのないさま」
「人情に薄いこと。思いやりの気持ちがないこと。また、そのさま」

 ()()()とは、どんな人だろうか?

「思いやりがなく、ドライな性格の人」

 辞書で調べると、大体このような説明が並ぶ。
 千夜(ちよ)は、がくっと頭を落とした。

「思いやりがない。ドライねえ」

 正につい先程、自分に投げつけられた言葉だった。彼氏から。

「もう元彼か」

 アハハと声を上げて笑ってみる。夕方の部屋の中に、その声はやけに虚しく響いた。
 つい先程、二ヶ月前に告白されて付き合ったばかりの恋人から、別れを告げられたのだった。要するに、惚れられた相手からフラれたのだ。
 
 理由は『薄情すぎて無理』とのことだった。

『千夜っていつもドライじゃん。俺のこと、実はあまり好きじゃないだろ? 思いやりがないっていうかさ……とにかく、もう俺もお前のこと好きじゃないから』

 まだ一時間も経っていない。憤りを含んだ声の調子、見下ろしてきた呆れ顔まで、詳細に思い起こせた。
 細かいことを思い出せば出す程、千夜は段々イライラしてくるのだった。

『お前のこと好きじゃない』

 こんな事を言われて、悲しくない人間なんているだろうか? いるはずないじゃないか。十五歳の女の子なら、尚の事だ。

「好きになってる、途中だったのに」

 声が震えた。
 告白された時、正直その男子のことは知らなかった。千夜が通う中学校は、マンモス校なのだ。三年間一度も同じクラスにならずに、顔と名前が一致しない生徒も少なくない。元彼もまた、千夜にとってそうなりそうな内の一人だった。

 それでも自分に好意を寄せてくれる人がいると知って、嬉しかったのだ。友人からは「カッコイイじゃん!」「よかったね!」などと祝福され、人並みにときめいてみたりした()()なのだ。

「ときめいてみたり……したかな……?」

 記憶を遡り、千夜は「はて?」と首を傾げる。

 初めて手を繋いだ時。
 映画館で並び座りながら、肩をくっつけた時。
 
「あれ?」

 時間が現在に近づくに連れて、思い出すのは彼の横顔ばかりになった。目線すら合わすことが減ったためだ。

『キスしていい?』
 
 と訊かれたのは、先週のことだった。
その時何と答えただろうか。確か真剣に、今キスすべきかどうかを検討したはずだ。そして冷静な頭で、こう告げたのだった。

『やめておこうよ』

――うん、これは薄情すぎる……なんであんな言い方したんだろう。なんで……

「そりゃ愛想も尽きるよ……何やってんだ(チヨ)……」

 先週の自分に、突っ込みを入れた。
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