【恋なんて知らない】

文字数 2,158文字

とある国のお姫様は「お淑やか」という噂がたっていた。
お姫様はいつも、空を見上げて、のんびり過ごしていると、色々な所で話されていた。



私は、皇女として生まれて来た。
生まれながらに、お姫様として育てられ、お姫様の生活しか知らない。
私は「お淑やか」という噂がたっていると、どこかの殿方から聞いた。
私は本当はそんなんじゃない。
城を抜け出すし、誰かの言いなりになるなんて、本当は嫌だった。
だけど、私が生まれた瞬間から、お姫様としての人生を歩んでいる以上、誰かの言いなりだった。
だから、自由になりたくて、ずっと空を見ていた。
蝶のように、あるいは鳥のように。
自由に羽ばたければ良いのに。
そう思っていた。
そんな私に、お父様である国王は告げた。
おまえにも、結婚相手を選ぶ時が来たと。
私は顔も知らない男と結婚するのだろうか?
お姫様である以上、自由に結婚相手を選べないのは、分かっている。
それでも、自由になれたら、自由に「恋」というものが出来たら…と思っている。
誰からかこっそり聞いた、殿方との恋愛。
心がざわつき、誰かを好きになったら、相手の事しか考えられない。
容姿、性格、その存在が輝いて見えると。
私はそんな「恋」なんて知らずに、嫁いでいかなければならない。
国の為だとか、なんだとか言われ、自由はない結婚だ。
私はその話がまとまる間、地獄のような気持ちだった。
勝手に城を抜け出し、馬に乗って駆けた。
誰も知らない、私だけの秘密の場所へ逃げた。
そこまでくれば、誰も追って来ないし、一人になれるからだ。



お姫様が一人、森の中で休んでいると、とある男が声をかけてきた。
身なりはそれなりの身分のようだ。
お姫様は警戒するも、男は姫の名前を口にした。
何事かと男に問われ、お姫様はなにも答えなかった。
「さぞかし、恋も知らぬ乙女であろう、婚儀が迫っていると聞いている」
「なぜ、それを?」
「…知らなくても良い事だ」
「教えても、下さらないんですね」
「あぁ、教えたら面白くなくなるからな、さて、話の方へ戻ろう、姫は、恋をお望みか?」
「あなたが、先程仰った言葉を、そのままお返しします」
「本心は言えぬか、なるほどな。姫、顔も知らない、どんな相手なのかも知れない男との結婚は嫌か?」
「…答える必要が、おありだと?」
「そうだな、なにも答える訳ないな、わかった」
そう言うと、男は「では、私の顔くらい覚えておいて下され、それでは、私はこれにて失礼」と言って、馬で駆けていった。
男が向かったのは、城の方だったのを、お姫様はずっと見ていた。



お姫様の婚儀が決まり、お姫様は相手の城へと、連れて来られた。
そこでお姫様は、森で会った男の顔を思い出していた。
“あの時の…”
お姫様は、あの時、森で会った男と、今、結婚相手として目の前にいる男が同一人物だと気付いた。
“顎髭の男”それが、とても印象深かった。
お姫様は“どうせこの殿方も、恋とかそういう理由で私と結婚する訳ではない”と思っていた。
政略結婚
そんな言葉は、当たり前の時代である。
特に身分の高い者ほど、政略結婚は当たり前である。
誰もが憧れるお姫様や王子様には、自由なんてものは、無いのである。
恋愛感情抜きの結婚である。
幸せかどうかは関係ない。
お姫様も、そう思っていた。



森を馬で駆け、自然が大好きで、動物と触れあいたいと思っていた「お淑やか」と噂されたお姫様は、いつの間にか、結婚して立派な王妃となっていた。
子供も生まれ、そろそろ年齢的に死を迎えてもおかしくない時を迎えていた。
結婚相手は、先に亡くなったが、思いのほか、愛の溢れる相手だった。
王妃を愛し、子供達を愛し、自然や動物達へも優しかった。
民への気持ちも、国への想いも、全てが王妃の好きなタイプだった。
王妃は、自分が愛されていた事を沢山知り、心はとても満たされていた。
それでも恋愛というものに憧れていた。
そんな王妃が、死ぬ前に漏らした言葉は、「次の人生というものがあるなら、今度は自由に恋愛したい、もちろん相手はあの人、私をちゃんと愛してくれた、あの人にもう一度会って、今度はちゃんと恋愛して結婚するの」だった。
その言葉から何日か経ち、国は王妃を失った。
その言葉が叶うかは、神のみが知りえる事だが、王妃の最後は、心穏やかな顔をしていた。
幸せに満ち溢れた人生だったであろう、表情だった。



『あなたの前世は、お淑やかで、動物や自然を愛したお姫様でした。
皆に愛され、なにより王様に愛された余生をおくりました。
それでも最後に願ったのは、自由に恋愛したいという気持ちでした』
とある女性は、首を傾げた。
自分の前世というものが、ピンと来なかったからだ。
「お淑やか…?」
お転婆と言われた女性には、その言葉もピンと来なかった。
それでも、運命の相手からの言葉で女性は、その言葉に納得出来た。
「俺と出会ってから、ずっとおまえは、自由に恋愛したかったって、口癖のように言ってたよな」
「それもそうだね」
「なぁ、俺の前世ってなんだったのか、調べてくれないか?」
「分かった、ちょっとまって」
女性が言われた通りに、男性の前世を調べると「顎ヒゲの生えた、心優しい王様」と出てきた。
二人は笑いあった。
それが、ちゃんと二人の前世であると、知らなくても、二人はおかしいと笑いあっていた。

                終わり
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