歌を歌って 巧side

文字数 1,659文字

全く……亜藍も無茶なことをしたよ。苦手な相手二体と平原で対決するなんて。
おかげで謎の能力にも目覚めたし。
さて、今から俺たちが向かうのは朽ち果てた神殿。なぜか朽ちた蜘蛛型弾圧装置の巣になっている場所だ。保砂の苦手な場所。というわけで保砂は置いてきている。
メンバーは俺と亜藍と磨花。なんで男一人?保砂も来たらよかったのに。
俺だって弾圧装置は苦手だよ……。
神殿に入った瞬間、弾圧装置のレーザーが飛んできた。倒れる磨花。……役に立たなかった。
構えた亜藍だけど……もちろん背後からのレーザーで倒れる。……こっちも役立たず。
俺に四方八方からレーザーが飛んでくる……。なんとかよける。
「何やってんだ、巧!」
保砂……助けに来「ぐわっ!」……役立たずめ。呪うぞ。
やっぱり俺が最後まで残るのか……。
戦った。やはりいくつかの装置は破壊できた……が。
俺も無傷では済まない。右手の傷を見ながら思う。これは致命傷だな……と。
まあいい。いくつか破壊できて、この近くに住む民の役にたてるのならいい。それが本望。
「早く……に、逃げて……よ、巧!……」
亜藍?
「何言ってんだ。俺が逃げたらお前ら……」
「いいの……。どうせ、私はあそこで死ぬところだったんだから。ここで死んでも、変わらない…。」
亜藍が月女神の剣と太陽神の盾を構える。
無駄だ。無駄だよ。何をやってるんだ?
幼いころから「無駄なこと」を避けてきた俺には、わからない。
「巧は寿命長いでしょ?私は……あと10年で死ぬんだって……。占い師が言ってたの、聞いちゃった……。」
はは、と乾いた笑いをもらす亜藍。
「10年後……いつ死ぬのか、おどおどして暮らすくらいなら……。今死んだ方が、ましだと思うの。早く、逃げて。巧には……未来がある。その未来を……私のせいで消すわけには…いかない。」
いつの間にか、まわりからは磨花と保砂の姿が消えていた。
あいつら……逃げたか。
「早く行きなさい!巧!」
ボロボロになってなお、立ち上がる亜藍。
床に剣を突き立てると、屋内のはずなのに……弾圧装置に雷が落ちた。
ひるんでいる。……この隙に逃げろということか。
駄目だ。俺にはとてもできない。
でも……助けることもできない。
なんだろう。自分に対する怒りと絶望。いや、絶望と言うより悲観と言った方がいいだろうか。
……こんな時でも自分を客観的に見れるのはある意味ですごいな。
「俺は……逃げない。死なせてあげられずにごめんな、亜藍。でも……俺だって、仲間を見殺しにはできない。仲間を見殺しにした後悔を背負ってこの先何百年も生きるのは嫌だ!」
そういった時……何かが光った。
光は目の前を覆いつくし、何も見えなくなった……。

「亜藍?!亜藍?!大丈夫か?!」
何も見えない中、精一杯の声で叫ぶと、
「大丈夫よ。むしろ……さっきよりも大丈夫なの。」
そんな訳が分からない声が返ってきた。
どういうことだ……?
光が消えた。亜藍の方を見ると……
亜藍の傷が、癒えている。なぜ?
さっき致命傷を負った右手の傷を見ると、きれいに消えていた。痛みも感じない。
なぜだ?
「考えてもしょうがないじゃない。今は……戦うしかないのよ。」
言うなり、亜藍が近くの弾圧装置にとびかかる。
今度は月女神の剣の代わりに古代の剣、太陽神の盾の代わりに古代の盾を装備している。
ああ、古代の武器は古代のモノに強いという鉄則を今更思い出したか。
俺も近くにあった古代の槍を持つ。

しばらく時がたち、朽ち果てた神殿からは弾圧装置が全て消えた。

その後……
またズタボロになった俺以外の三人。
まったく……。呆れを覚えながら手当をしていると、またあの時のようになにかが光った。
光が消えると、あの時と同じように三人の傷が癒えていた。
ふと視線を下げると、そこには水の紋章が刻まれた指輪が。
ああ、これは俺がどこかでしてきた後悔の念が具現化して、この先後悔しないようにしてくれたんだ。
そんな訳ないはずなのに、なぜだかそう思った。

遠い未来、巧が身に着けた癒しの力は〈水王子の癒し〉と呼ばれるようになることを、彼らはまだ知らない……
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