第3話

文字数 518文字

「昨日の帰り、玄関で梶田さんに会ったよ。藤本さんからお餞別に凄いもの戴いたので、そのお返しをどうしても渡したいんだって。今日も玄関で待ってるって言ってたよ」
「…別に凄くないよ。ただのボールペンだよ」

私は昨日、別部署に用事があって裏門から出たので、彼女に会わなかったのだ。餞別のお返しにお菓子をくれたではないか。それで十分ではないか。

ラインやメールが好きでない私は彼女と連絡先を交換していなかった。酷いとは思ったが、私はその日も裏門から出た。正直、何かを貰うのは面倒だった。

翌日。横尾君がまたやってきた。

「昨日また玄関で梶田さんに会って、藤本さんまだかって訊かれたよ。昨日会わなかったの?」
「えっ…うん、ちょっと用事があって、裏門から出たから…」

梶田さんの家は、異動した職場より南にある。つまりうちとは反対方向だ。梶田さんの新しい職場の定時は17時で、うちは18時。つまり定時後、わざわざ私に会うために反対方向の電車に乗ってやって来ているのだ。ここまで電車で30分はかかる。

そこまでする? しかも2日続けて。…私は何だか怖くなった。
翌朝も横尾君が言った。

「昨日も会ったんだけど…」

私は心底ゾッとした。
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