勧進帳

文字数 1,564文字

 神主さんが説明してくれるのかと思っていると、神主さんはお守り売り場に戻っていた巫女さんに目で合図した。そして、お互いにうなずく。
 何が起きているのだろうと思っていると、その巫女さんが出てきて勧進帳の話をしてくれた。

 それまでは勧進帳といえば、義経が弁慶に殴る蹴るの暴行を受けたという程度にしか知らなかった。巫女さんのお話では、安宅の関というのは箱根の関のようにいつもある関所ではなく、源頼朝が弟の義経を捕らえるために臨時に設けたものだったらしい。

 以下に巫女さんからの話をまとめた。

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 本来ならないところに関所があったわけですから、義経主従は困ってしまいました。そして、近くで遊んでいた子供たちに、どこか関所を通らずに行ける道はないかと訊ねます。扇を渡して情報を得ようとするのですが、

扇が一本足りません。だから、子供たちは抜け道を教えてくれませんでした。
 他に道はなく、関所を通るしかなくなりました。そこで、義経一行は勧進していることにして、山伏の格好をして通ることにしました。勧進というのは、お坊さんが寄付を募って地方を渡り歩くことです。そうすれば、関所を通ることができると考えました。
 けれど、関守の富樫(とがし)左衛門(さえもん)泰家(やすいえ)は彼らを怪しみ、勧進をしているのなら証拠を見せろと言います。そこで武蔵坊(むさしぼう)弁慶(べんけい)は何も書いていない巻物を勧進帳だと言い、それを広げると、さも書いてあるかのように読みあげます(その内容はここの石碑に書いてあることを教えてくれた)。
 その甲斐あり「通れ」と言われます。けれど、最後にいた荷物持ちの振りをした義経が目をつけられてしまいます。
「義経ではないか?」と言われてしまうのですが、機転を利かせた弁慶が、
「またお前か。お前のせいで何度足止めを食らっていると思ってるんだ!」と言って、殴る蹴るの暴行を加えます。
 その姿に心を打たれた富樫左衛門は、彼らを義経主従と

関所を通します。
 これが歌舞伎の勧進帳で、ここはその舞台となった安宅の関です。
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 富樫さんが義経主従だと『知って』通したところがポイントらしい。

 安全だと思っていた場所に、いきなり関所があって義経主従はびっくりしただろう。悪いことなにもしてなくても、おまわりさんがいたら驚く。いきなり道路で検問をやっていたという状況で、しかも自分が探されてい犯人だったとしたら……。
 それを想像して、一緒に緊張してしまった。

 お話が一段落すると、なんとなく巫女さんと目が合って、にっこりと微笑みあってしまった。巫女さんから話を聞いている間に、先に建物の中を見学していた方たちの話が終わり、入れ替わるように私も建物に入り、中にある宝物の説明を受けた。

 羽子板と同じように、板に布で勧進帳のシーンが描いてある絵。版画もあり、江戸時代後期の珍しい物らしい。三枚で一枚の絵になっているが、手作業なのでどうしてもずれてしまうそうだ。

 また、今もあるかわからないが、由緒のあるお家から奉納されたらしい武器も面白かった。とげとげがいっぱいついた、大きくて持ち上げるのが大変そうな武器や、さすまたの実物も置いてあった。錆びている感じで少し怖かった。武器を集めていた弁慶にあやかって置いているそうだ。

 だいたい説明が終わり、また意味もなく、巫女さんと微笑みあってしまった。
 笑顔が素敵な巫女さんに案内してもらえて嬉しかった。

 安宅住吉神社は勧進帳にちなんで難関突破のお守りが有名らしい。
 買っておけばよかったと後になって後悔した。

 すぐに来れると思って買わなかった。
 また行くことがあれば、今度は買いたい。
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