石川県と私

文字数 540文字

 私が安宅の関が現実に存在していると知ったのは学生の時だった。当時は石川の大学に通っていて、たまたま近くを車で通りかかった。

 モヤっとしか知らなかった勧進帳。
 それまでは、どこか架空の物語のような気がしていた。

 自分が生活している場所に、いきなり現れた物語の世界。
 当然、興味を持った。

 しかし、石川県に住んでしばらくは安宅の関に行けなかった。学業のこともあり、微妙にタイミングがずれた。機会があれば行けるだろうと思っていたら行けなかった。

 けれど、予定もしていなかった時、その機会は訪れた。
 学食で昼食を取っていると、たまたま会った友人が、「帰省するから小松空港まで乗せてくれないか」と言ってきた。

 頼んでいた人が行けなくなり、空港までの足がなくなってしまったらしい。
 午後は何もない日でたまたま時間があった。
 二つ返事で引き受け、友人を小松空港まで送った。

 友人を見送り帰りはひとりになった。大学に戻ろうとしていると、やけに『安宅の関』という文字が目に入ってくる。テストもなく、教授に提出するレポートもなく、こつこつと卒論を書けばいいだけの状況。

「行けってことかな?」
 そうつぶやく。

 そしてほくそ笑み、広い道路をUターンしていた。
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