第9話  大地の病室にて

文字数 1,274文字

  大地の祖母の明子が大地の病室へ入ると、明子に気付いたひとみが、

 「お母さん、遅かったじゃない」

 「ごめんね、でも大ニュースがあるの」と明子が少し大きめの声で言ったため、

 「何よ、大ニュースって? 病室でそんな大きな声で話さないで」とひとみが少し感情的に言った。
 「実は、この近くでジャガーズの田村選手に会ったの」と明子が言った。

 「ほんとなの?」とひとみが、疑わしそうな顔をして言ったため、

 「ほんとに田村選手よ」

 明子は、ジャガーズの田村に出会った経緯を話した。

 「大地、今度、ジャガーズの田村選手が大地のところへ会いに来てくれるって」と明子が言った。

 「ほんとうに、タムが来てくれるの?」と大地は嬉しい顔をして言った。

 「お母さん、大地にそんな嘘をつかないで。大地が本気にするでしょ!」とひとみが言ったため、

 「でも、田村さんは、三日間は大阪にいるので、ここに来られるかもしれないと言ってくれたんだよ」

 「そんなの社交辞令に決まっているじゃない。それにジャガーズは、明日から三日間試合があるのに来られるわけがないでしょ」とひとみが強い口調で言った。

 「田村選手は、お仕事が忙しくて来れないかもしれないけれど、大地が早く元気になるようにと言ってくれたの」とひとみが大地に言うと、

 「うん、早く元気になるよ」と明るく大地は言った。


 そして、大地の父親の幸雄は、
 「大地が頑張れば、早く病気も治るからね。でも、早く病気を治すためには、今日からここでお泊まりをしないとだめなんだ」と言った。

 「パパもママも一緒に、お泊まりをするの?」と大地は不安そうに聞くと、

 「パパとママは、一緒にお泊まりはできないの」とひとみは言った。

 「お家に帰りたいよ」と大地は半泣きなった。

 「大地、お友達に笑われるわよ」とひとみが言った。

 その友達というのは、同じ病室にいる誠という子供のことである。 誠は大地と同い年で五歳だ。病気も大地と同じ白血病で、大地よりも半年早く入院しているのだ。

 その時、ちょうど誠の見舞いに来ていた母親の美代子が、大地の家族に気付き、
 「こんにちは」と言った。

 「こんにちは、今日からこちらでお世話になる村山です。息子の大地です。これからもよろしくお願いします」とひとみは言った。

 「大地君ですね。息子の誠です。こちらこそよろしくお願いしますね」と美代子は言うと、

 「誠、大地君と仲良くするのよ」

 「うん、仲良くする」と誠は言って、大地のベッドに近づくと、

 「これ、あげるよ」と誠が、折り紙で作ったものを大地に渡した。

 「ありがとう」と大地は言うと、ひとみは誠に、 

 「誠君、どうもありがとう。カブト、すごく上手にできているね。今度、大地にカブトの折   り方を教えてあげてね」と言った。

 「いいよ、教えてあげる」と誠は言った。

 その後、大地と誠は、折り紙で遊んでいた。

 そして、大地は両親に向かって、
 「パパとママが帰っても平気だよ」

 「大地はやっぱり強い子ね」とひとみが言うと、

 「男の子だから、強いもん」と大地は自慢げに言ったのだ。

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