9.

文字数 1,239文字

「なんで、その人は私の傍に趣味で集めたようなデータを置いたんだろう?」

 とりあえず、もう一度その船の最後の航路を辿ろうと船を動かした。その最中に、AKIは宇宙を見ながらそう言った。

「そうだなぁ……俺なら何となく想像がつくよ」
「どんなもの? 聞きたい」
「ああ」

 船は自動操縦になっている。俺もAKIと同じように宇宙を見て話す。

「AIは確かに驚異的な技術だ。だが、何でも使いようということだろう。50年ほど前の主流はオペレーターの目的に合わせてOSを操作したり、ガイドをしたり、人間には難しい量の計算をしたり、そういうことを機械的に行うものだったはずだ。人間らしさを研究してヒットした例もあったが、その頃は受け入れない人間も多かった。業務のサポートなら、機械的なサポートを企業が用意するものだろう。

 それでも、多くの時間を共にすれば愛着のようなものが生まれるかもしれない。その機械的な音声やサポートに、感情のようなものを見出したかもしれない。それが自分の勝手な想像だということにも気づくかもしれない。そして、何らかの行動を起こしたかもしれない」
「それが改造?」
「そういうことじゃないか? 最も、ちょっとした希望だってことは本人にもわかっていただろう。もしかしたら何らかの変化があるかもしれない。そんな希望。ちょっとした願い。それは、叶わなかったが……叶ったのかもしれない」
「その人の命を、私が救った?」
「きっと、そういことだろう。そう言う事にしておく。報告書にはそう書いておくよ」
「ええ」

 そのまま二人で宇宙を眺めていた。しばしの時間の後、再びAKIが口を開く。

「私ね、さっきのアラート音を聞いたときに何かが思い浮かんだ気がした。だけど、もっと強くなったのは、あなたが端末の電源を落とした時なの」
「ほぉ? どういうことだ?」
「多分こういうことだと思う。企業が従業員にオーバーワークを強いたなら『システムやサポートAIの警告を無視しろ』と言って聞かせたんじゃない?」
「そういう話は今でも聞くぞ。どこまでが真実かは測りようがないが、いつの時代でも起こってしまうものなんだろうな」
「私が警告を発し、アラート音が鳴る。そして、その人がそれを切る。スイッチか何かを操作して」
「それがノック?」
「天国の扉を叩く。無感情なAIにしてはずいぶんと詩的な思考。その謎の記憶ストレージが、かつての私を動かした」
「そして、今になって本人がそれを解明?」
「船のシステムとしての記憶を喪失し、謎の記憶を備え、性格の一部として生まれ変わった。今の私はその人の望んだ姿なの?」
「そう言う事にしておいてもいいんじゃないか?」
「……そうだね」

 日本語は面白い。言葉(ことば)。言の葉。

 今のAKIが放つものが、この宇宙に存在することがとても神秘的に思える。何の役に立つかはわからない。だが、俺には必要なものだったと確かに感じられた。

(終わり)
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