8.

文字数 1,220文字

「超過勤務か!?」
「え?」
「記録にはお前の暴走の一部が残っている。クルーの証言ということで。その暴走事故が起きた際、お前は『規定違反をしている』という言葉を発したらしい。それ以上の事は口を噤んでしまい、証言もあやふやな点が多い。だが、俺の推理が正しいなら、その対応も頷ける」
「それは……」
「会社の記録は偽装されているか、もしくは改ざんされたか。クルーはやむを得ない事情があり働き続けなければならなかった。そして、それを見過ごせなかったお前は暴走した」
「な、なるほど……」
「検証は必要かもしれないが、これで俺の仕事は一つクリアだな。問題はこの後だ」
「私がどうやって船を動かしたか?」
「その通りだ。例の記憶領域には、全体の記憶部を補えるものでは無いと思うが、完全にそうとは言えない」
「私は結局、その船をどこまで運んだの?」
「予定の進路を真っすぐ、とでも言うのか。その後エネルギー切れで完全に停止。重力に流されて宇宙を漂っていた、というところだな」
「つまり、その誰かの仕事を完遂しようとしたのね」
「そういうことか……そうだな。そういうことだ」
「それなら、わかるかもしれない」
「何だ?」
「いわゆる、娯楽作品のデータ。そこにはSFやファンタジーのデータもある。私はそれを参考にしながら、出来ることを模索したのだと思う」
「聞きたいな。どんなものが思い浮かぶんだ?」

 AKIはケージポッドの上でくるりと回転した。そして前方の宇宙を見て語っていく。

 ☆ ★

 その時の私の目的は、こんなものだったのでは?

 誰かを船の外に出し、私がその人の仕事を引き継ぐ。その後どうなるのか、考えていたかはわからないけど。

 とにかく、それを目的とするなら、こうするのでは?

 緊急停止スイッチが押されることを予想していた。その状況が迫り、そのスイッチが押される直前に何らかのシールドを張る。

 そして、スイッチが押される前にクルーを脱出ポッドに射出し、生命維持機能を作動させ、SOS信号を発信した。私は船の記憶部を自らパージ。シールドのおかげで制御部は停止することは無かった。

 私の感覚だけど。改造の影響かもしれないけど、どこか鋭いところがあるんでしょう?

 昔の私もそうだったかもしれない。あのアラート音。それをソナーとして使ったんじゃない?

 宇宙に音は出て行かないけど、船内なら? その音の微妙な変化で船の位置を割り出せるとしたら?

 残されたリソースもセンサーとして使ったとしたら?

 例えば、装備されていたアームの幾つか。その腕の動き、角度の調整なんかを計算の補助としてつかったなら?

 エンジンの動作も含んだとしたら?

 途方もない話だと思う。だけど

 ★ ☆

「あり得るかもしれない」

 俺が呟くとAKIは振り返った。

「検証を?」
「しよう」

 俺達は無限の宇宙を進んでいった。
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