第1話どうしたの?

文字数 2,171文字

私はこれで野球少年の話を書こうと思う。こずるい、というか、汚い子供らしさは抜きに。それくらいあるのが当たり前だがフィクションなので、それは書かない。
野球も高校の硬式までやると、べらぼうに金がかかるし、それからプロとなれば、金、金、金の世界である。それはしない、せいぜい続けても公立高校の野球部くらいまで、といった、文武両道のいい子達を書いていく。
親御さんも、我が子が金づるだなんて思っている、腐った親は書かない。あくまで、その子の人生を大事に支えていく親御さんを書いていく。こんなにいい人ばかりの世界などあり得ないのだけれど、それを敢えて書く。

康介は、今日の優太の球にあまりにもキレが全体的になかったので、どうしたんだろう、と思っている。二人は小学校の軟式野球チームに属していて、康介がキャッチャー、優太がエースピッチャーだ。
だから、優太に、何か悩み事でもあるの?と聞いてみようと思っている。
優太の球は小学生にしてはかなり速く、そもそも軟式では禁止されているが、速いストレートに加えてチェンジアップとして、スプリッター、見せ球か、タイミングを外す時のカーブを投げれる。それに加えて、縦横のスライダーにツーシームにカッターと、サークルチェンジも投げれるし、監督には内緒で、マイク・ムシーナに憧れて、ナックルカーブも練習中だ。これらを試合で投げれれば、バンバン三振の取れるピッチャーなのだ。もっとも試合では投げないから、投げるのは中学以降だと思っている。
チームの他の子も、康介も優太も成績がいいので、大学へ、いずれは進学し、勉強していくつもりだ。せいぜいやっても地元の進学校の野球部までかな、と思っている。
幼い頃は、プロの道も夢見たが、二人共、プロは金まみれでろくなもんじゃないぞ、と一生懸命諭されて、子供ながらに諦めた。それに、二人共、文学や数学などに幼い頃から、ロマンを感じるような子だったのだ。野球バカになるよりはそっちへ進みたくなった。研究者、に会ったことが二人共あったが、その人が、普通の人間でありながら、あまりにも清廉な生き方をしていて、こんな人になってみたい、と思ったのだ。だから、野球は大好きだけれど、最終的にはそんな風に生きよう、と思っている。
康介は、家に帰り着き、ただいま、と言うと、お母さんがおかえり、と向かえてくれる。ごはん出来てるよ、今日の練習どうだった?試合近いんでしょ?なんて聞かれる。
うん、今日はなんか優太が調子悪かった、明日、理由を聞いてみるよ、と話す。まだ1年生の弟の誠次は、兄ちゃんはすげえなあ、俺も今度野球始めるよ、と言っている。
どこの家も、手をかけてしつけられた長男より、ある程度ほっとかれた次男のほうがスポーツでもなんでも要領がいいので、誠次が始めたら、そのうち自分は抜かされるんだろうな、なんて、ふふ、と少し楽しみで笑う。
お母さんが康介は運動しているから、と、たらふく食べれるようにご飯を用意している。魚の煮付けに、から揚げ、ほうれん草の和え物、ジャーマンポテトなど色々。康介は空腹にまかせてご飯をひたすらにかっこむ。
誠次はまだ運動をしていないけれど、遊んで走り回っているので、これまたたくさん食べる。この辺りも、康介が誠次のほうが野球でも自分より伸びるだろうと思う理由だ。きっと自分よりパワーもスピードもある選手になるんだろうなあ、と思う。
けれど、それもまた高校までの話、誠次は兄ちゃんが大好きなので、自分も一生懸命勉強しよう、と思っている。二人共、立派な社会人になれそうで、まだ帰ってきていないお父さんも、お母さんも、頼もしく思っている。
子供達は風呂へ入り、バラエティ番組を見て笑ったら、康介は素振りやスローイングの練習をして、明日の授業が終わったあとの練習に備える。試合まであと1週間で、だんだん緊張感が高まり、それへ向けて、チームメイト達と同じように、康介も調整している。
誠次は未経験なので、なんでその動きしてんの?など、興味を持って康介の練習を見ている。うん、まあ、お前もそのうちわかるよ、プロ野球の試合をよく見てみなよ、兄ちゃんみたいな動きしてるから、と説明する。
そこで最後に汗を流しておいて、誠次と一緒に、旨そうにカップのアイスクリームを食べて、しばらく馬鹿話を二人でして、キャッキャ言ってたら、そのうち、お母さんが、もう寝なさい、と言うから、歯を磨いて二人共眠る。寝ながらも、そこは小学生、ふざけた話をしながら、まぶたが重くなるまで起きていた。

朝、お母さんから、もう起きなさい、学校だよ、と言われて二人共、まぶたをこすりながら起きる。誠次がふざけて、康介に寝起きの息を吹きかける。くさっ!と康介が反応すると、誠次は嬉しそうに、あはは、と笑う。二人共ふざけたい盛りだ。
けれど、康介は、優太に昨日の練習の理由を聞かなければいけないので、そのことで頭がいっぱいだ。優太の控えに、ショートを守っている賢治、背番号10のリリーフとして主に使われる翔(かける)、とバックアップのピッチャーはいるものの、本調子の優太には敵わないので、優太の心配をしてしまう。もっとも、ダルビッシュの控えの真壁のように、賢治も翔も好投手だが。
勉強は出来る康介だが、今日は上の空で授業も済ませ、放課後の練習に向かった。
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