第2話話してくれよ

文字数 2,187文字

練習は道具出しに始まり、準備運動、軽くグラウンドの外周をランニング、としてから上級生から下級生まで、フリーバッティングがある。下級生は、まだ打ち方を知らない場合があるから、仕事の合間に来てくれたコーチや、上級生が優しく教える。なんや、お前は、それでも男か!なんて罵倒の時代は終わっているのだ。それから、ポジションごとに分かれてノック、内外野のボールの処理も含めた、守備の総合練習をする。ランナー何塁、アウトカウントは、バッターは右左、など、ケース練習も含めて。ここまでやればかなり時間も深まり、グラウンドも暗くなってくるので、ある程度合格点があげれるプレーが出来たら、上がり、となる。
みんな終わったら、ベースランニングをして、ダッシュ100メートル往復十本、最後外周をまた軽くランニングして、また柔軟体操をして、練習終了、みんなでグラウンドにトンボをかける。
ここまでやると結構きつい。康介も、優太も、他のみんなもクタクタだ。それに、ノック中、康介は、優太の球や、ノックからちょっと抜けてきた賢治、翔の球も受ける。相変わらず優太のコントロールが乱れる。
きつい練習を終えると、7時半、そこでやっと康介は優太に質問出来た。
どしたの?なんかいつものいい球投げてないぞ、俺ら最後の予選が近いのに、と聞いた。
すると、優太は、うーん、いやまて、とかなんとかいいながらひとしきり悩んで、うーん、実はね、姉ちゃんに子供が出来たんだよ、と言った。康介は、あ!と思う。
そういえば優太には十三歳離れた姉さんがいたんだった、こないだ結婚したと聞いていたけれど、もう子供とは。優太言う。だからね、俺は小6か中1で既におじちゃんになっちゃうの、たまったもんじゃねえよ、まあ、姉ちゃんの旦那さん、釣りに連れて行ってくれたりするから好きなんだけど、まあ、やることやってんのね、てさ、弱ったよ。
康介大笑い。あっはは、お前おっさんかよ、またずいぶん若いおっさんだな!だからか、球にキレがなかったのは、そのことばっか考えてたんだな。お前は他人だから気楽だな、当事者になってみろ、たまらんぞ、と優太。
康介は、けどまあ、俺らにもちゃんと好きな子いるし、いずれは人間ならあることじゃない、なあんだ、そんなことか。
そんなこと、って、もうおっさんになる俺の気持ちもわかってくれよ。
うんうん、俺には年の離れた兄さん姉さんがいるんじゃないから、正しくはわからない、だけど、お前の気持ちもわかるよ。けど、まだ俺ら若いから、おじさん、とは子供から呼ばれないよ。兄ちゃん、じゃないか?
そうかあ?と優太。そうだよ、大丈夫だって、それよか、生まれてくる子供と仲良くしなよ、と康介。まあそうだな、やっと吹っ切れた、康介聞いてくれてありがとう。
いやいや、さすがにエースピッチャーの親友が調子悪いと気になるよ、試合、頑張ろう!初戦の先発は賢治だけど。だったね、で空いたショートにサードの喜一郎、そのサードに俺だった。康介は、そうだよ、だからお前ちゃんとサードのノックに入らないと。ファーストの信弘が取りにくい送球したり、ポロポロやったりするぞ、気をつけろよ。そうだよなあ、賢治のやる気を削いじゃうもんな、うん、サード守備練習に明日から入るよ、と優太。よし、愚痴聞き終わり!気ぃ取り直して頑張ろうぜ、と会話を終え、着替えて帰った。
家に帰って、お母さんにこのことを話すと、あっはは、優太君、そんなことで悩んでたの、かわいいなあ、と言う。まあ、奴にしたら大問題だったんだろね、けど、よかったよ、実はひどいいじめに遭ってるとか、恋の重荷で押しつぶされそう、とかじゃなくて、と康介。誠次は、兄ちゃん、優太君の愚痴聞いたの?すげえじゃん、そういう仕事に就けるよ、と言う。康介は、そうかあ?大したことはしてないぞ。お母さんは、臨床心理士とか将来取りたかったら、ちゃんと院まで出したげるから、頑張んなよ!とハッパをかける。今日は、きつねうどんとカツ丼のセットが晩御飯だ。お母さんはなんでも作ってしまうのだ。クックパッドも見るけれど(笑)。
それからはいつも通り。11時前には子供達は休む。
康介達六年生の最後の公式戦まであと数日。みんな多いに遊び、多いに練習する。
明日には優太の球はキレを取り戻していることだろう。それにしても優太の悩みはかわいい。子供には大問題だけれど。
それと、昨日は、誠次の練習初参加だった。誠次は、兄ちゃん、こんな野球の練習ってきついの?と根を上げたが明日からも慣れていくまで頑張ってくらいついていくつもりだ。誠次には、初日に、兄と同じキャッチャーでなく、サードのポジションが割り振られた。監督が、誠次の1年生にしては恵まれた体格を見て決めたことだ。康介には監督は教えてくれたが、5年後はお前の弟をキャプテンに据えるつもりだ、そのために鍛え抜くからな、途中でやめさせるなよ、と笑いながら、大真面目に言われた。まだ始めたばかりなので、緩くノックしてもらって、それでも誠次はまだポロポロやるが、肩は強い。なんと1年生にして、送球がファーストまでストライクで届いた。ファーストの信弘も驚いたし、優太もみんなも、さすがに康介の弟だな、と思った。
最後の大会まであと少し。みんなで納得いくまで練習して、いくところまで行ってやる、とチームの和はピッタリだ。
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