第3話 放映されない競技

文字数 1,345文字

 入場券が手に入らなかった人々にとって、ささやかな楽しみはモニターに映し出される映像だった。しかし、競技が開始されたであろう時刻を過ぎても、オーロラビジョンにも、テレビにも映像は映らなかった。

 原因不明のまま、競技は続いた。しかし、これではスポンサーへの違約金で大赤字。国家の威信も失われるとなれば、総理の首も危うい。
 「これは、電波を独占しているやつがいるな。」
 ゲンブは正義に告げた。
 「そんなことが出来るやつがいるのか?」
 正義は半信半疑だ。
 「いる。」
 ビャッコが語るには、セイリュウという五倫獣なら可能だというのだ。やつは、遥か上空にいて、気に入ったものはなんでも独り占めしてしまうらしい。

 「冗談じゃないわ。私たちには放映権があるのよ。」
 話を聞いていた、レポーターのお姉さんが飛び出した。
 「当ても無く探しても無駄よ。」
 愛理が止める。
 「せっかく、レポータに選ばれたのに、これじゃバラエティ担当に左遷されちゃうじゃない。」
 映美も引かない。
 「やつは高いところを好む。」
 ゲンブがフォローした。
 「富士山で決まり!」
 愛理が右手の人差し指を立てて叫ぶ。
 「東京から離れては妨害できない。電波が強く、都心部で高いところ。」
 映美には心当たりがあった。日本一の電波塔。そこにやつはいるはずだ。

 正義と愛理も後追う。スカイツリーのテッペンにやつはいた。その手の中には映美がいた。セイリュウに捕まったのだ。
 「ちょうどいい。おれだけのために解説をしてくれないか。」
 セイリュウは緑色の巨大な羽を広げて電波を吸い取っていた。

 「彼女を放せ!」
 正義がセイリュウに向かって叫ぶ。
 「雑魚が。」
 セイリュウは正義に向かって音波を出した。それを聞いたものは頭が割れる痛さを覚え、倒れこんだ。
 「ビャッコ合体!」
 愛理はビャッコの力を解放した。そして、青白いスーツ姿のセイリンとなった。
 「例え、ビャッコでもじゃまするなら容赦せん。」
 セイリュウはセイリンに向けて音波を放射した。彼女はそれをかわし続けた。が遥か上方にいるセイリュウに手出しすることは出来なかった。

 「おれが、やつの注意を引く。」
 コクリンとなった正義が、セイリンに告げる。彼女は物陰に隠れた。一人残ったコクリンはセイリュウを挑発し続けた。
 「ゲンブまで邪魔するとは。許さん。一飲みにしてやる。」
 そういって、セイリュウはコクリンとなった正義の前に舞い降り、大きな口をあけて顔を彼に近づけた。
 「今だ!」
 そう叫ぶとコクリンは身をかがめた。後ろからセイリンが彼を飛び越えて現れた。
 「ニュウジョウケン。」
 そう叫ぶと、両腕で胸をはさみ、あらん限りの色気を振りまいた。
 「キャー、かわいい。」
 乳嬢妍。それは色気で相手を骨抜きにする恐ろしい技だった。
 「五倫の書、第三章。真実を共に分かち合え。」
 正義の言葉とともに、開剣が振り下ろされる。

 正気にもどったセイリュウは、封印されレポーターのお姉さんは包影圏の使い手『ミドリン』となった。
 「え~、どうせならグリンのほうがかっこよくない?」
 映美の反論は受け入れられなかった。
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登場人物紹介

五倫獣『ゲンブ』
人間の心を閉ざし、やがて引きこもらせる

五倫獣『ビャッコ』
強い愛情により、相手の独占欲をかきたてる

五倫獣『セイリュウ』
強い独占欲を持ち、相手に貢がせる

五倫獣『スザク』
コピー能力を持つ

五倫獣『キリン』
空間を曲げる能力を持つ

ゴリン者『コクリン』

開道正義(かいどうせいぎ)

五倫寺の修行僧

行方不明となった師を探している

必殺技は、開剣(かいけん)

ゴリン者『セイリン』

愛理(あいり)

歌手

ヒット曲は『あ・豊乳割るど』

必殺技は、乳嬢妍(にゅうじょうけん)

ゴリン者『ミドリン 』

映美(ひでみ)

レポーター

必殺技は、包影圏(ほうえいけん)

ゴリン者『ニチリン』

作治(さくじ)

兄と共に金属加工業を営む

必殺技は、猪炸拳(ちょさくけん)

ゴリン者『オウリン』

勝利(かつとし)

マラソン選手にして遊びの達人

一児の父

必殺技は、気捲(きけん)

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