第14話:東京探検と秋葉原もうで

文字数 2,011文字

 1964年の東京オリンピックが、開催され、高速道路の整備、東京都心には、高層ビルが、続々と立っていき、新しい時代の息吹が、感じられた。田山留吉の兄、田山隆造は、1963年に、一橋大学を卒業してMT銀行に入社した。入社後、最近できた実家から近い大泉支店に赴任して徒歩で通勤し始めた。そして、しっかりと貯金に励んでいた。一方、田山留吉は、1966年、都立大泉高校を受験し合格して家から通った。兄は、金儲けが好きで、神田の古本屋へ行って投資の古本を買い込んで勉強していた。

 そして留吉に東京オリンピックが終わって、日本も世界でも一等国の仲間入りした。これから経済が急成長し、一緒に日本株も急上昇するはずだと言い、俺は、その流れに乗って財産をつくると豪語していた。お前に株の情報を教えてやるから楽しみにして待ってろと告げた。しかし留吉は、兄の上目線での言い方が、いつも癪「しゃく」に触って、好きになれなかった。そのため自分のペースで勉強を続けた。高校に入り陸上部に入部して長距離の選手になろうと毎日5キロ、走り切れるのだか、それ程速く走れず長距離の学校の代表選手には、なれない。

 それでも走ってると、頭がすっきりして、周りの花々の変化が、わかり気持が良い。春の桜、冬の銀杏の紅葉、実に気持が良いものであった。さらに、汗をかくと頭がすっきりした。それに加えて、集中力もついて来た。実家の田山家は、貧しい農家だったが、近所の安村商店を引き継いだ。そして最近の好景気で商品が、かなり多くの商品が売れ、以前に比べ信じられない程、金回りが良くなった。そのため、新三種の神器と言われる、カラ-テレビ、洗濯機、クーラー、自家用車「カローラ」を購入した。

 やがて高校2年となり大学をどこにするか決めるじきになり都立大学経済学部なら何とか合格範囲に入った。そのため都立大学経済学部の過去の受験問題集を本屋で購入して勉強をして徹底的に頭に叩き込んでいた。留吉は、不幸中の幸いで、記録力にかなり自信があった。その他、小藁田ラジオを分解したりして機械が、好きであった。そしてアメリカのIBMが、コンピューターを作ったと聞いて、コンピューターにも、かなり興味を持っていた。兄が、音楽好きで、その影響もありステレオで好みの洋楽を聞いた。やがて1969年となり都立大学経済学部に入学願書を提出した。

 そして受験日を迎え、両親と一緒に目黒の都立大学へ行き受験会場に入った。特に上がる事もなく、淡々として受験することができた。そのため、やるだけのことはやったと満足感があった。2週間後の合格発表には、母と一緒に行き、受験番号を見つけたが、感動した。しかし、単なる人生の一歩程度の感動だった。そこで母が、興奮して良かったねと言ったが、まあねとクールに言うので、拍子抜けしていた。家に帰り父に伝えると兄さんは、優秀だったが、お前は、それなりだった。だからどうなるか心配したよと微妙な言いまわしで、褒めてくれた。

 それでも、夕飯には、好きな寿司を取ってくれ、合格祝いをしてくれた。その席で、兄が、最終的には、就職先で金持ちになれるか否かが決まると言った。相変わらず、嫌な言い方するものだと、思ったが、しおらしく、兄さんの足元にも及ばないけどねと言うと、まー公立の大学に入れたのだから両親に過剰の負担をかける訳ではないから、良かったねと言ってくれた。その後、約1時間かけて自宅から都立大学まで通い始めた。もちろん大学の授業は、全て出席したが、休みの日に途中の渋谷、新宿、池袋へ行って散策するのが楽しみだった。

 大泉学園は、武蔵野とは言え、東京都心からは、離れており、東京の名所を良く知らなかった田山留吉にとっては、魅力的だった。一通り、めぼしい所を回り終えた1970年になり好きな所としては、秋葉原電気街、次に築地の寿司屋、皇居、神田の古本屋とカレー屋、日本橋界隈であった。その中でも最も好きになったのは、秋葉原電気街だった。その理由は、無料で世界の一流のステレオセットで好きなレコードを楽しめる事だった。土日、店が明けると一番に入りJBL、タンノイのスピーカーで、ポールモーリア、フランシスレイ、素敵な映画音楽を聞くと何とも言えず落ち着いた。

「オーバーに言えば、生きていてよかったと思えるほどの至福の時間を過ごせた」11時過ぎると、お客が増えて気を遣い店を出て他の電気屋を見て回った。そして金のある時には、万世の焼肉定食を食べた。その後、日本橋の麒麟「きりん」の像が、気に入って何枚も写真をとった。さらに日本銀行、貨幣博物館も面白かった。その後、兜町の証券取引所も見学できると聞き見学した。すると取引所の何とも言えない緊張感と高速で表示が変わる価格などを見て心が、踊るのを始めて経験した。そうして、ただ、凄い時間の流れだった。これが、生きてる実感かもしれないと感じた。
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