第2話

文字数 892文字

 プレサたちと同じ村に住む、放蕩息子のゼカはニウベに首ったけでした。

 なぜなら、ニウベは(家の)金や(親の)権力ではけして振り向かせられない唯一至高の女性だからです。
 手の届かない存在となると、よけいムキになって何としてでも手に入れようとするのがこのゼカという男なのでした。

 今日も今日とて神殿にいそいそと足を運び、若き石工が精魂込めて彫ったという美しきニウベ像の前でひざまずき、恒例の朝の祈りを捧げます。内容をがっつり声に出して。

「おお、ニウベ。俺の麗しきニウベよ。あなたはどうしたら俺に寄り添う愛人となってくれるのか……」

 祈祷の間のすみでいつものセリフを聞かされていた神官たちは、プレサ制止の際につけられた青タンだらけの顔と顔を見合わせました。

「今の聞いた?」

「うん。アタマ沸いてるよね」

「なんで愛人なんていう発想になるんだよ……」

「そもそも女神って恋愛対象じゃなくね?」

「こないだの娘も恋仇がどうのこうの言って暴れてたもんなぁ……どいつもこいつもイカれてやがる」

「もしかして流行ってんの? カミサマとの恋。プックスクス」

 神官同士が思いっきり陰口を叩いていると、ゼカがいきなりスックと立ち上がり、身ぶり手ぶり付きの大仰なひとり芝居をはじめたではありませんか。

「――嫉妬!? ああ何だ、使徒ですか。俺があなたの使徒になれば未来永劫全身全霊で愛して下さるんですね? マジっスか? こっちは人生捧げるんですからウソは言いっこなしですよ!?」

 神官たちは「信じられない」が浮かんだ顔と顔をふたたび見合わせました。

「まさか……神託?」

「敬虔な信者である我々だって賜ったことがないのに! ずっるい」

 これぞまさしくラブパワー。恋する男のしつこい一念が、石像を通じて神の心をついに動かしたのです。

 ゼカは得意満面で神官たちをふり返り、

「なぁおい。ごらんのとおり、ニウベが俺様の求愛を受け入れてくれたんだがね(うらやましいだろう?)、彼女の使徒となるにはどうやればいいのだ?」

 神官たちはこの鼻持ちならない質問に笑顔で答えます。

「なに、カンタンですよ」

「それはイケニエとなることです」

「えっ」
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