第6話序章:興亡盛哀の先史 ~隠晦曲折・6・~

文字数 2,105文字

 数年後、十一国は子供に王座を渡した。だが形骸化した十一人の王は数十年に渡り自国の発展には微塵も興味を示さず政策は平凡、期待された能力は虚妄に思えた。それとは対照的にエーカムが治める国だけが軍事力、科学力、生活水準共に飛躍的に向上した。その基盤となったのが錬金術と魔術の融合であった。

 だが驚異的に発展していった国は天然資源の減少に伴い次第に停滞していったのだった。そんなある時、新エネルギーの存在を知る。それは宇宙から飛来した鉱石から抽出される物質でのみ作り出されるエネルギーだった。地上にはその隕石が少なくごく少量しか取れなかった。だが天体を観測していたチームから崩壊しそうな惑星を発見しそこの鉱石はその物質を多く含んでいる可能性が高いとの知らせが届く。このことを受け各国の王たちは再び集まり神樹の元へ向かう。

 そして神樹に〝崩壊しかけている惑星の鉱石を我々に与えてほしい〟と願う。神樹は何も答えぬまま幹を光らせる。すると神樹は張られていた結界を解いたのだ。遥か上空に糠星が微かに見え空は黒く暗澹となっていく。今度は神樹が浮き上がり十二の株に分かれ何処かに飛んで行ってしまう。

 そして、一連の様子を自室から眺めていたエーカムは鍵付きの引き出しにしまっていた〝日中しか現れない本〟を持ち椅子に座っていた。

 「彼奴らは死なないから良いよなぁ。っていうかあの結界神樹だったら解けちゃうのか。そりゃそうか。はぁもうそろそろかな?今日は長い夜になりそうだね・・・まぁ私は最後まで見れないと思うけど」

 そんな独り言をいっていると部下の一人が大慌てでやって来た。

 「エーカム様早く避難しましょう!椅子に座ってないで!」

 「いやぁどこに逃げても無駄だと思うよ?だからさここで最後の太陽を見ていようよ。きれいだよ?」

 「いや・・・しかしですね・・・」

 「いいよ避難したければしても。私は此処に残るよ」

 「そう・・・ですか・・・では失礼します」

 そう残し部下はそのまま部屋を出て走って行ってしまった。

 「最後ぐらいゆっくりすればいいのに・・・」

 寝殿の中で亜麻の花を愛でていたスパーコナは辺りが暗くなった事に気付きすぐさま外に出る。神樹が有った周りに十二人の人間が集まっているのを見つける。なんだかもめている様だった。今日まで予知夢を見ていなかったことで災厄の運命は回避できたと思っていた為忘れかけていた。そしてあの記憶通りに時間が過ぎていく。もう変えることなど出来ないと感じてその場に立ちすくす。その十二人は奇妙な服を着ていた。

 光沢のあるぴちっとした服で身体の大事な部分を護るように防具の様なものを付け、空中を鳥よりも自由に舞っていた。その十二人は降って来た流星を避けたり手に持っていた得物で壊したりしていた。夢でみた光景と少し違ったことに気付かずにその光景をただ眺めていた。流星は留まることを知らず次から次へと降ってくる。十二人は処理しきれなくなり次々と流星に飲み込まれていく。その刹那に飲み込まれようとした身体が光ったのだ。其れを見た残りの7人は逃走を図る。それでも流星は逃すことなく追跡し飲み込んでいく。逃げても駄目だと気付いた生き残りは次に透明になりやり過ごそうとするが見えてるかの様に狙い定めて飛んでくる。私を除く人っ子一人居なくなるまで流星は降り続いた。それは永遠にも感じる時間だった。

〈あの十二人は私欲に溺れ過ぎた、その故神の逆鱗に触れたのだ。殺せぬ故、封印させてもらった。ただ、こなたはこの者たちを生んだ者その償いはしてもらおう。だが其方の願いはまだ叶えられてない。我はもうすぐ力を失う、叶えるなら今だ。さぁどうする。決断の時だぞ〉

 「それならこの世界を正し、導く者が現れてほしいのです」

〈そうかそれならこの世界を変えられる人間を生み出そう。それにはいつか貴方の力が必要になる時が来る。その人間を導くまでをもって罰としよう。其れまでこの力を与えよう。また会える日を楽しみにしている〉

 また私の周りに光が覆われ、身体は変化もなく人知をこえた力が湧くわけでもないが可笑しいことに気付く、物に触れられなくなっていた。今度は大きな穴が開いた神樹の跡地、遥か上空からスパーコナに対して波の様にざらっとした声で話し掛けてきた。それはあのクジラの様なものからだった。

〈その身体はティヴィニティー体になったのだ。罰が終わるまでその身体のままらしい。其方の息子ハマートマも同様のようである〉

 「なぜ息子まで罰を与えるのですか?」

〈それは分からない全てが終わってから話すと聴いている〉

 「何故私は・・きっと私は・・明確な目的に安堵して待ちわびていたのだろうか?・・それとも」

 声の調子が変わり女神の様な慈悲に満ちた休まる様な柔らかくも安心するような声だった。

〈貴方たちに神の祝福がありますように〉

 そう最後の言葉を残し雲と共に消え星団が此方を覗いていた。月光が輝いて見えた。

 そして、星降りによって人知れず散らばった蕨手刀らは月虹を映し、月光を物寂しく浴びていた。

 天の火から時は幾夜も幾年もたった。数字にして三千年であった。
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登場人物紹介

序章



 



族長      :アジャの一族の長。スパーコナを呼んだ本人。



 



エーカム    :アジャの一族で族長の長男。のちに一国の王となる。



スパーコナ   :預言者(予知夢により未来を知れる)。エーカムの妃になる。やがて神樹の周りを納める統治者 



         となる。文明が消滅した後、神の使いになり物体に干渉出来ない身体になっていた。



ドヴェー    :アジャの一族で族長の次男。料理が出来、体躯は子供の様である。のちに一国の王となる。



トリーニ    :アジャの一族で族長の三男。細身で高身長である。のちに一国の王となる。



チャットヴァーリ:アジャの一族で族長の四男。筋骨隆々の大男。豪快さがある。のちに一国の王となる。



パンチャ    :アジャの一族で族長の五男。シャットとは双子である。のちに一国の王となる。



シャット    :アジャの一族で族長の六男。のちに一国の王となる。



 



スパーコナの子供:生まれつき肌の色が所々異なっていて骨格も歪である。瞳には真っ白な天使の輪がかかった様な模様がある。



 



エーカムの所に送られた子供:他の子供をそそのかし、魔術印章を開発した本人。



 



チャットヴァーリの所に送られた子供:病気に伏せている友人を見て薬師になる事を心に決めた王子。使用が多岐にわたる植物を各国から取り寄せ日々薬の調合をしていた。



 



チャットヴァーリの所に送られた子供の友人:唯一王子と友になった子供。生まれつき持病を持っており最近になって床に臥せている状態が続いている。



 



その友人の祖母:心優しくいつも微笑んでいる。



 



友人の家の近くに住んでいる男:何故か病気に伏せている友人を気に掛けていた。



 



教会の聖職者の男:規律にうるさく融通の利かない人。



 



 



正編



カーヤ              :神の使い。物体に干渉出来ない身体を持つ。性別不明。



ジーバ              :神の使い。物体に干渉出来ない身体を持つ。性別不明。



栃佐野 蕺(とさの しぶき)   :葵の父親。筋骨隆々で熊の様。何気に料理が上手い。何処かぬけている。



栃佐野 葵(とさの あおい)   :正編での主人公の一人。母は四歳の時に失踪する。代々受け継がれる神力に疑問を抱えていたが使者の登場とこの世界が抱える危機にその意味を理解した。



 



表栃佐野家特家六職(表六職)



天津  石(あまつ しゃく)   :前当主の刀鍛師。蕺の事を慕っており刀を造る腕は一級品。



天津 春蘭(あまつ はるか)   :現当主の刀鍛師。父の後を継ぎ葵の為に刀を打つ。少し豪快な性格。



端空  毬(はしうつ まり)   :前当主の貫釘師。



端空 茱萸(はしうつ しゅゆ)  :現当主の貫釘師。母の後を継いだ。



雪消 重陽(せきげ ちょうよう) :前当主の縁頭師。



雪消  柊(せきげ しゅう)   :現当主の縁頭師。



針白 探梅(はりしろ たんばい) :前当主の鍔打師。



針白  槐(はりしろ えんじゅ) :現当主の鍔打師。葵と同い年で同じ学校に通っている。



空木 かんざし(うつき かんざし) :前当主の鎺金師。



空木 紫陽(うつき しあき)   :現当主の鎺金師。十五歳。



小金井 朴(こがねい なお)   :前当主の刀室師。



小金井 銀葉(こがねい ぎんよう) :現当主の刀室師。葵と同い年で同じ学校に通っている。



七夜  薺(たなや なずな)   :前当主の柄工師。



七夜 石蕗(たなや つわぶき)  :現当主の柄工師。十五歳。



 



他 二家



 



沫立 千万(あわだて ゆきかず) :現当主。



沫立 俊(あわだて しゅん)   :次期当主と言われ続けているが継げないでいる。



俊の弟



俊の従妹



俊の祖父             :前当主によって継ぐ資格なしの烙印を押され沫立家ではぶられている。子供を何処からか連れてきた。



山女 不香(たかひめ ふきょう) :前当主。南の山の頂上付近に住んでいる。分家を含め女性が多い。



山女 綵花(たかひめ さいか)  :現当主。性格がきつく男にはよりきつい。



 



製薬企業の社長



製薬企業の社長直轄研究室室長(男)



製薬企業の社長直轄研究室室長お抱えの戦闘部隊



製薬企業の研究員(女)



 



軍事企業の社長(男)



軍事企業の社長秘書(女)



 



企業が支配する社会に一矢報いようとする組織



 



葵の学校の部員



 



部長、燈台 雪(とうだい ゆき)



2年の菅夏 夕(すがか ゆう)



1年の嘉 花菜(よみし はなな)

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