《“馬糞っ子”の苦悩》

文字数 2,160文字




『真ん中 馬糞(まんなか まぐそ)』…

どの時代の どこの誰兵べえ が言ったかは知らないが、世の中には 酷い言い回しがあるものだ。

私は三姉妹の真ん中、まさに馬糞っ子。。

この言葉を初めて聞いたのは、確か小学校低学年の頃だったと認識している。
父の口からだ。

『真ん中(…の子供)っていうのはな、馬の糞ぐらい 誰からも見向きもされない、構われないってことなんだよ〜』

父も本当のところの意味はよく分かっていなかったように思うが、自分で意味を勝手に解釈し、そう私に伝えると ケラケラと笑っていた。

父は元来 根が単純で、人を笑わせるのが大好きな人間だ。
だから決して我が子を悲しませようと目論んで言ったことではない。
単純に『馬糞』と言う面白い響きを使い、幼い私を笑わせたかったのだ。

それは分かる。今なら分かる。
しかし当時の私は、まだ冗談が通じるには10年早い 鼻垂れ小僧だ。

顔で怒って心で泣いている私の反応を見て、屈託なく笑っている父を、子供ながらに蹴り飛ばしてやりたい気持ちになったのは否めない。。

でもこの言葉、あながち間違いでは無いかもしれないと、大人になって今思う。

『一番上』は 最初の子なので親や周りから厳しく育てられがちだが、その分、 一族郎党からの期待度や愛情、可愛がられ方も半端なくゴールド級✨

『一番下』は最後の子なので、家族の中で最も小さき弱者であり、それがまた可愛らしく健気に見え、親もついつい甘やかしてしまいがち。
周りからの チヤホヤ度は シルバー級✨

こうなると、上と下に挟まれ、これと言って持ち味のない“真ん中”の可愛がられ度数は、やはりブロンズ級となるのだろう。

ブロンズ……何だか色まで馬糞色…。

そもそも真ん中は、『一番上』とか『一番下』のように、『一番』がつかない時点で、すでに両者に負けている。

よそで誰かにお菓子を戴く際も
『 じゃぁ一番上のお姉ちゃんからどうぞ〜✨』
…と言われる日があるかと思えば、

『 一番下のチビちゃんからどうぞ〜✨』
…と言われている日もある。

しかし
『一番真ん中の子からどうぞ〜✨』
…などとは決して言われない。 言われた試しがない。

この順序だと、
〈真ん中は絶対に一番最後にはならないんだから いいじゃん!〉
…との声がありそうだが、真ん中からすると全然『いいじゃん!』ではない。

私だって一番になれるラッキーな日があるのなら、最後になるリスキーな日も 喜んで引き受けよう!
しかしそんな幸運もリスクもなく、真ん中は常に二番手なのだ。

次回への期待も面白味も何も無い。

『どうせまた上か、下からでしょうよ…』

と、私はいつもどこか冷めた顔をして、諦めの境地で佇んでいた。
他の例で言うならば、一番上が何か善い行いをした場合

『さすが一番上のお姉ちゃん!偉いね〜✨』
などと言われ、

今度は一番下が善い行いをすると、

『一番小さいのに偉いわね〜✨』
と、上下の二人には『偉い』の前に枕詞がつく。

でも真ん中はどうだ。
善い行いをしても

『真ん中なのに偉いね〜✨』

とはもちろん言われないし、そもそも善いことをしたところで、あまり気づかれない。

実は私はココが↑真ん中が『馬糞』と言われる所以ではないかと思っている。

足元に転がっている馬の糞など、誰も気にも止めないからだ。

でもだからこそ馬糞っ子は、せめて己の存在に気づいて貰おうと、自力で異臭を放ち 、パタパタと必死に周囲へ匂いを送り続ける。
だがそれが却って、

『自己主張が強い』『我が強い』

…などと言われ、挙げ句、

『ただの目立ちたがり屋』

…と、こちらからすると まるで見当違いな哀しい烙印を、早々に押される事となる。。

真ん中に、負けず嫌いや天の邪鬼、勝ち気な性格が多いとされるのは、こういった背景があるからではないだろうか。

何もしなくても『一番』の称号がもらえる上や下とは、そもそもハングリー精神が違う。

佇んでいるだけでは見向きもされない真ん中は、己に目を向けて貰うことに貪欲なのだ。
そこのところを 世の大人達には、ぜひ理解して子育てをして頂きたい。

涙ぐましい努力家の 『真ん中 馬糞っ子!』。。

私は解っているぞ!君たちの寂しさや無念さを…!!

頑張れ健気に生きる馬糞っ子!✨

フレー!フレー!馬糞っ子!!✨

しかしながら、世の中の“真ん中”の方々が全て、私のように幼少期を ひがみ根性丸出しで生きていた訳ではない事も知っているし、

『一番上には一番上の、一番下には一番下の、人知れず苦労があるんだよ!真ん中だけ被害者面するな!』

…と上っ子・下っ子が憤慨する気持ちも、
重々承知している。

でも真ん中以外の立場になったことがない私には、違う立場の人間の心の内を、自分の勝手な憶測によって 解った風に書き綴る事は出来ない。

私は私でしかないからだ。

よって、偏った立ち位置からの見解のみとなるが、色々な立場の皆様にも、ぜひ ご理解頂きたい。

兎にも角にも、幼き頃の私の人格形成に大きく影響を及ぼした“真ん中 馬糞っ子論争”!(別に私以外 誰も論じていないが…)
私はこれらの体験から

【そうだ!どうせ善いことをしても目立たぬなら、悪いことをしても目立たぬだろう】…

と言った 誤った教訓を、勝手に脳内に ペタペタと塗りたくり、、三人姉妹の中で一番 ずる賢い児童へと成長して行く事となる。


〈馬糞っ子の苦悩・完〉





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み