第3話  白い空間と黒猫

文字数 1,081文字

夢を見ていた‥大好きだった

祖母の夢を‥

祖母は昔気質のハキハキした人で最初は正直、苦手だった。



すぐ怒るし‥なんとなく恐い人だと子供ながらに感じていたからだ。

でも祖母は誰よりも両親と僕の事を案じていた。



曇りないく真っ直ぐ人の目を見て話す人で嘘をつかれることを何より嫌い、そんな正義感溢れる人だった。



その瞳に見詰められると心が見透かされてるようで隠し事なんて絶対に出来なかった。



疚しい事があると目を逸らしてしまうし

隠そうとしてしまうのが人間の本質だ。

それを許そうとせず自らの弱さと向き合う事を教えてくれたのも祖母だった。



それなのに‥今の僕は‥



祖母がいてくれたら‥こんな事にならなかったかな?



「ばあちゃんだったら‥どーしたかな?」



声にならない声が心から漏れた。



会いたいなぁ‥



懐かしい祖母の顔が脳裏に浮かび

熱いものが頬を伝って流れ落ちた。



でも次第に薄れる記憶と意識に、僕は無気力に身を委ねた。



ひとりぼっちになっちゃった‥



寂しくて辛くて‥どーしようもない不安とやりきれない思いに心の奥が疼きだす。



得体の知れない何かが僕の中から生まれそうになった瞬間‥



脳裏に強い痛みが走る。

目の奥に電流が流れたような衝撃に涙腺を押さえると鼻の奥がツンッとした。



そして何かの強い力が強引に腕を引っ張り薄れかけていた意識が戻される。



「‥ここは‥?」



ぼやける視界が鮮明になり、映しだされる



僕が目にした場所は、白一色の何もない世界だった。



真っ白な世界‥



全てが白に、のみ込まれた音なき無の境地



不思議と冷静でいられた。



そこへ小さな黒い影がひとつ姿を現した。



スラリとしたホルム

小さな顔はスタイリッシュで大きくキリリとした瞳は魅力的な紅色でどこか妖しげな色香を漂わせ僕の心を魅了する。

艶やかな毛並みが美しい漆黒の身体。

白の世界に映える姿に僕は一瞬にして心をを奪われた。



「鏡の境界を破り自我を忘れ侵入してくるとは‥そんな風に育てた覚えはないねぇ」



耳慣れた懐かしい声。



「寝ぼけた顔してんじゃないよ」



悪戯な微笑み。



「優希」



名を呼ぶ

その優しく、心強い声



僕は‥僕は‥

この人を知ってる‥

熱く胸に込み上げてくる思いに、声が震え上手く呼吸が出来ない。



「‥ばあ‥ちゃん‥?」



僕は嗚咽を漏らしてながら崩れ落ちた。
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