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文字数 1,533文字

『三年前にこの学校に入学してきた皆さんも、もう今年からは高校生です。そろそろ自分の進路についてちゃんと考えるということを頭に入れておいてくださいね。時間はあっという間に過ぎていきますから』
 三年前に中学受験をして中高一貫校に入った私は、「高校なんて中学の延長でしょ?」と呑気に思っていた。しかしそんな軽い考えは、きっと四月の学年合同HRで言われたこの言葉によって壊されていたのかもしれない。何故「かもしれない」なのかというと、この時は「進路かぁ~」くらいにしか捉えていなかったからだ。
 ただでさえ中学の時点でも試験の教科数はそこそこあったのに、高校に上がったらその数はさらに増え、暫く勉強に追われる日々が続いた。そんな日々が続けば「『華のJK』とかいう言葉は一体何をもって出てくるんだ!」と思うのもやむを得ない。気がする、多分。まぁ、女子校に入学した時点でそんなことは端から期待もしていなかったのだが。
 話を戻すが、中学までは義務教育でも高校からはそうではないので、留年しないように……というか、そもそも再試にすらなりたくなかったので、なんとか成績は自分の許容範囲内に収めていた。
 そんな私を「進路」という現実に引き戻したのは、夏休みに出された課題だった。
『茉莉ー、オープンキャンパスどこに行く?』
 いつも一緒にいる友達の一人である楓香(ふうか)が、課題を出された後の昼休みにそう問いかけてきた。夏休みの課題自体はいくつもあったが、その中の一つに「大学のオープンキャンパスに最低二ヶ所行き、配布プリントに情報をまとめて提出」というものがあったからだ。彼女に問いかけられた私は、思わず困惑してしまった。
『え、どこ……って言われても、私まだ全然』
『あ、まだ決まってない? じゃあ希望学部とかは? もし学部が私の行きたいとこにもあるようなら一緒に行こうかなって思ってるんだけど』
『え、いや……それも全然……』
『ありゃりゃ、そうなの?』
 軽く驚くその反応を見て、私は少し焦りを感じた。楓香は中学の最初の頃からずっと一緒にいる友達なのに、いつの間に私から少し離れた場所に行ってしまっている気がしたから。
『んー、そうか……あ、ねぇ、花菜(かな)愛永(まなえ)! 二人はオープンキャンパスどこ行く予定?』
 私たちは普段四人で一緒にいるので、楓香が残りの二人にも同じ内容を問いかけた。花菜は「大学は決まってないけど、どこかしらの文学部を見たい」と、愛永は「薬剤師になりたいから薬学部を見に行くよ」と答えた。因みに当の楓香は「とにかく最初は有名大学を見に行きたい」のだそう。
 何も決まっていない私の様子を察したのか、花菜が言った。
『茉莉、もし迷ってるなら、私と一緒に文学部見に行かない?』
『えっ?』
『文学部って言っても、結構大学によって括りが違うんだって。文学系だけじゃなくて、教育系や心理系の分野が含まれているところもあるっぽくて、結構幅広いみたい。何かのきっかけにはなるかもだし、よかったらどう?』
 花菜の言っている内容をなんとなく受け止めたところで、私はその提案に乗ることにした。私一人で考えるにも限界がありそうだったのと、恐らく親に相談しても明確な答えに辿り着ける気がしなかったからだ。一応、楓香の方にもついていってみることにした。
 その結果、課題自体は早々に終わったのだが、それでも自分の進路については全く方向も何も見えることはなかった。ただ単に、大学の様子がざっくり分かっただけだった。
 ――遠い、皆が。何年かの付き合いがあるはずなのに。
 不意にそう思った。
 知らない間に、皆は、自分の進路をちゃんと考えていたのだ。
 ――私だけが、
 私だけが、周りに敷き詰められている道の真ん中で、動けないでいる。
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