第1話

文字数 1,352文字

高槻(たかつき) (るい)です、よろしくお願いします。」

4年生の夏休み明け、クラスに転校生がきた。


なんてキレイな男の子だろう。

この子はきっと、あたしと同じ。

この町には、似合わない。

この町には、馴染まない。



「ねえ、また怜奈(れな)、立候補したよね。ほんっと、目立ちたがり。」

「ほんと。学級委員なんて感じじゃないのにさ。よく立候補できるよね。」

「あずみの方が似合ってたのに。なんで譲っちゃったの~?みんな、あずみの方がいいと思ってたのにー。」

「私は特別やりたいわけじゃないから。こういうのは、やりたい人がやった方がいいんだよ、きっと。」

「でもねえー。泣くなんてさ。怜奈っていつもそうだよね、泣けばいいと思ってるって感じ。そうしたら主役になれるもんねー!」

「キレイな顔してるから、自信あるんでしょ、きっと。」

「ねえ、それよりさ!昨日のテレビ、見た?」

「見た見たー!」

トイレの個室の中で、みんなの気配がなくなるまで息を潜めて待った。

あたしだって、やりたくて泣いたわけじゃない。

どうしてあたしじゃダメなんだろう。

どうして誰も認めてくれないんだろう。

そう思うと、いつも悔しくて涙が出るだけだ。


あずみなんて、何もしてない。
なのに、あの子はいつもみんなから認められてる。

どうして。

それはきっと、みんなにとって「ちょうどいい」から。
特別目立つわけでもない、強く主張するわけでもない。

この町に、よく馴染んでいるから。

鏡に映る顔を見る。
母親に似た、この派手な顔立ちがいけないのか。
それだってあたしのせいじゃない。
こんな顔に、生まれてきたくてきたんじゃない。



幼稚園の頃、母が再婚してこの町へ来た。

会う人会う人、みんなが言った。
「あらー、美人さんだねえ、お母さんそっくり!」
「本当にお人形さんみたいに綺麗な子!」

何もしていないのに、この町のどこへ行っても、いつも目立ってしまう。
おとなしくしていれば、すましていると言われ、頑張れば頑張るほど、みんなからは目立ちたがりだと嫌われる。

なぜだろう。
どうすればいいんだろう。

ある朝、たまたま前の日の当番が捨てに行くのを忘れたのか、いっぱいになったゴミ箱に気づき、捨てに行った。

「あっ、怜奈!捨ててくれたの?昨日、私が捨て忘れちゃったから今朝行こうと思ってたんだ!ありがとう!」

空っぽになったゴミ箱を持って教室に戻ったあたしは、同じクラスのなっちゃんからそう言われて、ただ嬉しかった。

そうか。
みんなが嫌がるような役回りを、率先してやればいい。

そう思って、気づくことは何でもやった。どんな役にも立候補した。
けれど、いつも誰かがあずみを推薦した。

あたしはあたしを認めてもらいたくて、頑張る場所がほしかった。

それなのに、あずみがいつも邪魔をする。
いや、あずみが自ら邪魔してるわけじゃない。
でも、あずみの存在はいつでもあたしの邪魔をした。


家では、こっちに来てから産まれた妹が家族の愛を全てもっていった。


「どうしていつも私のジャマするの?」


心当たりはないのに、母からはよくそう言われた。

そうか、私は邪魔者なんだ。

あずみが邪魔なんじゃない、私がこの町の邪魔者なんじゃないか。

自分を守ろうとすればするほど心の中は歪んでいった。



そんな毎日の中で出会った、『類』。

この綺麗な男の子は、きっと私を救ってくれる。


類は、私の希望だった。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み