宇宙人探偵ファイ〔Φ〕 ③ラスト

文字数 3,340文字


 使用人から羽交い締めにされて怒り狂っているコックを無視して、ファイは家庭教師の女性に質問する。
「あなたが、ピーさんに教えている科目はなんですか?」
「バイオリンです」
 ファイの目がキラッと光る。
「ナゾはすべて解けました。バイオリンを教えているピーさんの、物覚えがあまりにも悪くて。イラつくほどバイオリンが下手だったので。あなたは衝動的にピーさんの背後から鈍器で殺害を」
「いや、ピーさんはバイオリンの上達も早くて、安定した音色でした……勝手に殺人犯にしないでください」

 ファイの妄言推理は続く。次にファイが指差したのはピーの婚約者だった。
「そろそろ、白状して楽になったらどうですか……あなたは、婚約者がいながら他に女性がいた。つまり浮気をしていた。そのコトをピーさんに責められて、カッとなったあなたはピーさんが後を向いた時に、鈍器を振り下ろして……」
「いい加減にしろ! さっきから聞いていれば、好き勝手な妄言推理して! オレは他に女なんていないし、浮気なんてしていない!」

 ファイがコックを羽交い締めにしている使用人を指差そうとすると、ファイが次に言おうとしている言葉を察した使用人は。
「オレ、犯人じゃないから」
 と、先制否定する。

 ファイは伯父夫婦に向かって言った。
「やはり、これは財産がらみの殺人でしょう。ピーさんの受け取った遺産に目が眩んだ強欲な伯父夫婦の犯行で。夫婦でアリバイ工作して、ピーさんを亡きものに……」
「強欲夫婦とはなんだ!! 失礼にも程がある、事業をやっているので金銭には不充していない!!」
「では、今から多額の借金をして、返済に困ってピーさんを殺害したということに、後付けでしていただければ」
「どうして、殺人事件後に、動機作りの借金をしないといけないんだ……断る!」

 その時、今までうつ向いて、ファイと屋敷の人たちの会話を聞きながら肩を小刻みに震わせていた屋敷のメイドが、顔を上げると哄笑泣きしながら自白をはじめた。
「あははははっ──もうダメぇ、我慢できない! デタラメな推理と会話がおもしろすぎる、自白しちゃいます! 同級生だったピーさんを……殺」
 ファイが慌てて、ゾンビ刑事に指示をする。
「いけない! 彼女の口をふさいで! ここで変なコトを言われたら、わたしの、今までの名推理が水の泡になる!」
 ゾンビ刑事は、腐敗臭
が漂う手で屋敷メイドの口を背後から押さえる。
「ふぐっ! くさっ、ぐぐぐっ」
 額の汗を手の甲で拭うファイ。
「危なかった……探偵の一番の見せ場を持っていかれるところだった。少しは空気を読んでください……さて、これで事件は振り出しにもどってしまいました。やはり、殺害された本人に直接犯人が誰なのか聞くのが一番でしょう」

 ファイの言葉に、ピーの婚約者が訝る。
「殺された本人に、直接犯人が誰なのか聞く? どうやって」
 ファイは、銃口がパラボラアンテナのようなレトロ銃を取り出すと、床に仰向け倒れて死んでいるピーに向けて、トリガーを引いた。
「『一時蘇生光線』パラパラッパラー」

 光線を浴びたピーの死体が、目をパチパチさせると上体を起こして呟く。
「あれ? あたし、どうしたの? なにか頭の後ろが痛い……なに、頭の後ろから流血して、わぁ!? 後頭部をぐにゃぐにゃする!?」
 ファイがピーに言った。
「さあ、あなたを殺した犯人が誰なのか答えなさい」
「何を言って……あたし、生きていて」
「いいえ、あなたはもう死んでいます……今は一時的に細胞を活性化させて動いているだけです、ダイイングメッセージを残しなさい」
「何がなんだか、よくわからないけれど……あたしを前から叩いたのは」
 立ち上がったピーが、口をゾンビに押さえつけられている、屋敷のメイドを指差す。
「同級生でメイドやっている彼女が金属のトレイで、あたしの頭を殴って、あたしは気絶しました」
 ゾンビ刑事が手を屋敷メイドから離すと、深呼吸をしてからメイドが勢いよく喋りはじめた。
「ぷはぁ、あぁ、臭かった……そうです、あたしがピーを殴った殺人メイドです」
 殺人メイドは奇妙な振りをつけて踊り出す。

 ファイが踊り続ける、殺人メイドに訊ねる。
「殺害の動機はなんですか?」
「最初はピーと仲良くプリンを食べていました、先にプリンを食べ終わったピーが、いきなり『ちょっと、食べさせて』と言って。あたしが食べていたプリンをスプーンですくって口に……ぶちキレたあたしは、気がつくとピーをトレイで殴っていました」

 ピーの婚約者が、まさかといった顔で言った。
「プリンを一口食べられただけで殺人? そんな、しょーもない理由で人を殺すなんて」
 説明するファイ。
「子供の時に、おやつの分配で不公平を感じて遺恨は抱いたまま育った兄弟が大きくなって、子供の時のおやつの恨みから殺人を犯す──ちょくちょく起こりうるコトです……人間の心の闇は深いものなのです」
 コックと庭師と使用人が、手を横に振る。
「そんな兄弟殺人、ないない」

 メイドの話しに殺人事件との矛盾に気づいた、家庭教師が口を挟む。
「ちょっと、待ってください……なんか変ですよ、その話し。ピーさんの致命傷は鈍器で殴られた後頭部の傷のはずでは? 真犯人がい……」
 家庭教師が言い終わる前に、フランケン・メイドのラリアットが家庭教師に炸裂する。
「げぼぼっ!」
 ラリアットで吹っ飛んで気絶する家庭教師。

 その時、何かを思い出したピーが言った。
「思い出しました! 頭をトレイで殴られて気絶してから一度、息を吹き返しました。
その時……後頭部を固いモノで殴られて……あたしを後ろから殴った犯人は……」
 ピーが誰かを指差す前に、ファイが『一時蘇生光線』を再びピーに照射すると、ピーは床に倒れて死体にもどった。

 それを見て怒鳴る、ピーの婚約者。
「人殺し!!」
「人聞き……いや、宇宙人聞きが悪いコトを言わないでください…………死体にもどさないと、殺人事件が成立しないでしょう。犯人が誰なのかわかりました」
 ファイは、ポメラニアンを抱いた伯父夫婦の夫人を指差す。
「あなたが、ピーさんを殺害した犯人です!」
 指差された夫人は首を横に振って全力否定する。
「あたし、何も知りません! 無実です!」
 夫人が無実を主張していると、抱かれていたポメラニアンが舌打ちをする声が聞こえた。
「チッ、バレちまったか」
 驚く夫人の腕から床に飛び降りたポメラニアンが、後ろ足で首を掻く。
 屋敷の誰かがポツリと言った。
「犬が喋った」
 大あくびをするポメラニアン。
「真犯人だと誰にも気づかれずにやり過ごせると思ったけれどな……さすが宇宙人の探偵だ、どうするつもりだ。殺人犯の犬を裁く法律はないぜ」
「どうもしませんよ、探偵に犯人を法的処分できる権限はありませんから……ピーを殺害した理由はなんですか?」
「あの野郎、息を吹き返して近くにいたオレを見て『何、見ているんだよ犬ころ』と言って。蔑んだ目でオレを見やがった……だから、鈍器で後頭部を殴って殺した」
「そうでしたか……心の闇が招いた悲劇ですね。後のコトは屋敷の人たちに任せて探偵は退場します──それでは、さらばです」
 ファイと、助手のゾンビ刑事とフランケン・メイドが部屋を出ていき。ついでに、ポメラニアンも隙をついてドアが閉まる寸前にスルッと部屋から出ていった。

 部屋に残された者が言った。
「まったく、なんなんだ……引っ掻き回されただけじゃないか。二度と来るな! 宇宙人探偵! あ、あれ?」
 ピーの婚約者がドアをガチャガチャと揺する。
「ドアが開かないぞ!?」
「そう言えば、ドアの錠前を新しいモノに替えたとか言っていたな。おーい、開けてくれ!」
「誰か開けて!」
 ドンドンと叩かれるドアはびくともしなかった。
「助けてくれ!!」
「ここから出して!!」

 数ヶ月後──屋敷の密室で、撲殺された人間の死体が一体と、餓死した人間の死体が九体……発見された。

【宇宙人探偵ファイ〔Φ〕】~おわり~
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