夢見坂村の恋愛スポット①〔ラブコメ? アホラブ?〕 

文字数 2,298文字

 夢見坂村にある愛多々神社の畳部屋で、村の高校生男女。
男子高校生の『夢見恋斗』〔ゆめみれんと〕と
女子高校生の『愛多々愛』〔あいたたあい〕は、手渡されたコピー用紙に書かれた内容に頬をヒクヒク痙攣させながら眺めていた。
 ちゃぶ台を挟んで二人の前に足を崩したラフな格好で座っている、巫女姿の愛の姉『愛多々変』が煎餅をポリポリかじりながら言った。
「どう? そのアイデア、あたしが考えて村長に提案したんだけれど、なかなかの名案でしょう『夢見坂村の恋愛スポットはココだ!』観光計画」

 変の隣には、夢見坂村の鹿姫温泉に一軒だけある、日帰り入浴可能な温泉宿の主人で夢見坂村観光課の役員長をやっている、恋斗の父親がニヤニヤしながら座っていた。
 恋斗の父親が言った。
「村長も、そのアイデアには乗り気でな。村としても全面的にバックアップすると……すでにグッズも完成している、登録商標は『恋・愛グッズ』だ」

 恋斗と愛の前に、恋斗の父親は完成した恋・愛グッズを並べていく。
 恋斗と愛の名前が入った『恋・愛ストラップ』
『恋・愛ピンズ』『恋・愛クリアケース』『恋・愛スマホカバー』
 恋斗と愛のカードがオマケで付いている『恋・愛スナック』に。
 恋斗と愛の姿を本人たちの許可なしでディフォルメ化して密着させた『恋・愛ラブラブヌイグルミ』まであった。
「恋・愛Tシャツとか、村に一軒しかない雑貨店の店先に置いてある、クレーンゲームやガチャ機の賞品にする『恋・愛卓上お座りシリーズ』や『恋・愛フィギュア』とかも現在、村のパートおばちゃんたちに頼んで制作中だ」
 恋斗と愛は、抱えるサイズの、ディフォルメ・ヌイグルミの試作品をそれぞれ持たされ。どんな反応をすればいいのか困惑する。

 変が、ヌイグルミを抱えた恋斗と愛の姿をデジタルカメラでパチパチと写しながら言った。
「現在、愛の妹系抱き枕も業者に頼んで作ってもらっているから……ほら、この間、制服姿のまま無防備に畳の上で寝ている愛の姿を、あたしに盗撮されたでしょう……あの写真をプリントした抱き枕よ──マニアに売れるわよぉ」
 今まで黙って話しを聞いていた愛が、持たされていた自分のヌイグルミ
を姉の変に叩きつける。
「黙って聞いていれば、勝手なコトばかり! 何を考えているのよ! お姉ちゃん!」
「だからぁ、渡した紙に書いてあったでしょう……夢見坂村を観光で活性化させるって」
 変は煎餅をポリポリと食べながら言った。
「この村を恋愛スポットにして単純なカップルを呼び込むのよ……ほら、この村ってロクな名産品もないでしょう。
名所や観光地は作っていくものだから……夢見坂村は観光資源でやっていくしかないから」
 村にある名所は、坂の上にある『夢見堂』──『愛多々神社』御神木の『愛のクスノキ』──それと『鹿姫温泉』だ。
「夢見堂は現在、屋根の瓦が剥がれて、ブルーシート張られて立ち入り禁止だし……うちの神社もそれほど参拝者が来ない盛り上がらない神社だし……メディアで取り上げられて一時期、人気があった『ハート岩』も、この前の台風で谷に落ちて割れちゃったし……いやぁ、あの谷川で真っ二つ割れて転がっているブロークンハートしちゃったハート岩は圧巻だったな……あの割れたハート岩のせいで、割れる前に訪れたカップルが不仲になる不吉な噂のスポットに変わっちゃったし……あははは」 
 恋斗の父親が変から、小声で話しを繋ぐ。
「実はここだけの話しだけれど……鹿姫温泉の源泉湯量が年々減少していてな。
たぶん、近くの山のトンネル工事が原因だと思う……先日、ついに源泉が枯れた。なんとか刺激を与えて源泉を復活させようと、地下で発破を数回爆発させたら……ちょろちょろ、お湯が出てくるようになった」
 父親の意外すぎる暴露に動揺する恋斗。
「あの朝方の地面の揺れ、うちが原因だったのかよ!! 親父、なんてことするんだよ!!」
「源泉が枯れたら、旅館は終わりだろうが! 家族全員が路頭に迷うコトになるんだぞ……とにかく、この観光計画に協力してくれたら……学費とかは村が全額負担するから」
 変が言った。
「夢見坂村の恋愛スポットをアピールする恋・愛キャラクターになってぐれるだけでいいから……二人の着ぐるみを作る案もあったんだけれど、生身の本人たちが村をうろついているのにワザワザ、ディフォルメしたゆるキャラ着ぐるみ、作る必要もないと思って……村のためにお願い、イチャイチャしてカップルごっこしてよ」
 恋斗と愛は、もう一度計画用紙に目を向ける。
 毎日のネット発信を目的とした『夢見坂村の恋愛スポットを訪れると、こんなにラブラブになれま~す♪』といった。
 内容が書かれていた。
愛が手にした紙を、怒りにプルプルと震わせながら言った。

「結果的ヤラセじゃないの! あたしたち、幼馴染みで別につき合っていないし」
 変がガッポーズで叫ぶ。
「じゃあ、この機会につき合っちゃえ!」
「お姉ちゃん……無責任な、お姉ちゃんがやればいいじゃない! どこからか、適当な男を捕まえてきてやれば」
「あたしはダメ、あたしが生まれた時、第一子に歓喜しすぎたお父さんが、村役場に出生届けを出した時に『恋』って名づけるつもりが『変』って書き間違えて、そのまま提出して今に至っているんだから……
出生届け書き間違えたお父さんも、書き間違えられたあたしも『ま、いっか』って改名しなかったんだから……ちなみに、あたしの小学校の時のアダ名は『変な子』だった」
「そんな裏情報いらないから」



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