架神恭介

文字数 4,345文字

こちらで架神が小説を書きます。他の方は書き込みをお控え下さい。
(それは唐突に始まった。僕の部屋の扉が乱暴にこじ開けられ、ドカドカとした喧騒が部屋内に鳴り響いたのだ。扉から入ってきたのは見知らぬ数人の男女の姿だったーー)
おぉー、ここが噂の心霊スポットか~。
さすがに雰囲気あるなぁ。
ね? どう、荒吐クン?
ここはいますね……確実にいますよ……。
奥の部屋の方から強い霊波動を感じます。
カメラ用意OKです
よーし、じゃあ、ナナコちゃん、今日も頼むよ~。
視聴者の皆さま、こんばんは。
怪奇レポーター五十嵐ナナコです。
今夜は都内某所の噂の心霊スポットに決死の取材に訪れました。
(!?!?!?!?!?????)
(な、なんだ……? 何が起こった!? なんなんだ、こいつらは……)
(当然だが、僕は混乱していた。見知らぬ男女が土足で僕のマンションにどかどかと上がり込んできたら誰だって混乱するだろう。最初は強盗かと思ったが、会話内容から察するにどうもそうではないらしい……。なんだ? カメラ?? しゅう……ろく?)
(両親は……どうも、いないらしい……。最近ずっと引きこもっていたから、部屋の外のコトがぜんぜん分からない。そういや、ずいぶん両親の顔も見ていない気がする。あの事件以来、僕はずっと家に引きこもって、大好きなビートルズばかりを聴いていたから……)
(僕は様子を伺うため聞き耳を立てた。入り口の方から闖入者たちの会話が聞こえてくる……)
今日は、陰陽師の荒吐鏡魔さんにご同行頂いています。

あの……荒吐さん。
私、ここに入ってから、ずっと右肩の辺りが重くて……。
これってやっぱり……
分かりました。ちょっと見てみましょう。

……フーッ! セイッ! セイッ!!

……間違いありません。この一室全体にモヤのような邪悪な霊気が漂っています。それが今も五十嵐さんの右肩に集まっています。ちょっと祓いますよ。

セイッ! セイッ!!

どうですか? ……えっ、変わりませんか? ……そうですか、ここの霊は思った以上に手強いですね。
(じゃ、邪悪な霊気……? こ、こいつら、何を言っている……。ここは、僕の家だぞ?? 僕がずっと住んでる僕の家だぞ。な、何を突然言い出して……。あれ? ってか、五十嵐……???? え、それって)
(僕はあわてて部屋のテレビを見た。ずっとつけっぱなしだったテレビ画面には『心霊怪奇特番 生放送! 五十嵐ナナコが行くPart.119 都内某所、恐怖と絶叫のワンルームマンション』なるテロップが踊っていた。……あっ、これって、僕も何度も見たことがある。エッ、てか、これ……画面に映ってるのって、僕の……)
(テレビ画面はスタジオの様子に切り替わっていた)
レポーターの五十嵐さん、気のせいでしょうか?
そちらの映像から、奇妙な音が聞こえてくるのですが……五十嵐さん、五十嵐さん、聞こえますか?
はい、五十嵐です。
実はその音はさっきからこちらでも聞こえていまして。
ドルルルル、ドルルルル……という不気味な音がずっと響いています。

いま荒吐先生が霊視準備に入っています。
フーッ! セイッ! セイッ!!

フーッ! セイッ!
五十嵐さん、この音の原因は一体何なのでしょうか。
あと右肩が重いと仰っていましたが……あれから、体の方に変調は現れていませんでしょうか?
はい。えっと、私の右肩に感じていた重みは…………今はありません。
荒吐先生のお祓いが効いたのかな、と思ったのですが、そのかわりに今、私の両腕にズシリとした重みを感じています。
荒吐先生は、やはり邪悪な霊波動が私の両腕にまとわりついていると言っているのですが……。
フーッ! セイッ!! セイッ!!!

ハーッ……ハーッ……! ハーッ!!!

お、音の……音の原因は……
ウウッ、頭が……くそっ、頭が! 頭がッ!!

頭がいたいッ! 痛いッッ!!!
荒吐先生! 荒吐先生っ!!!?
!?
五十嵐さん、こちら、荒吐先生の悲鳴しか聞こえません!

カメラ! カメラ捉えて下さい!
五十嵐さん、何があったんですか!?


そっちで何が起こってるんですか!!!!
おい! やばい!! やばいよ!!!
おいなんだよ、これ!!!!
マジでやばいよ、なんだよこれっ!!!?
ヒイイイイッ!!!!!
うわあああああッ!!!!!
(僕は…………呆然としながら、画面を見つめていた)
(金縛りにでもあったように……体が硬直して……動かなかった……。だって、だって画面では……)
(チェーンソーを持った怪奇レポーターが陰陽師の頭を唐竹割りにしていたのだから!!!!)
荒吐先生っ! 荒吐先生っっ!!!

ああっ……ひ、ひいいい。
じゃ、邪悪な霊が……この部屋に巣食う邪霊が。
荒吐先生の、お祓いを受けて、逆上して……。

た、たすけ……たすけて! ひいい!!!!
五十嵐さん! 五十嵐さん!!!

いますぐその現場から撤収して下さい!!!
だ、ダメだ!!!
扉が! 扉が開かない!!!!
なんで! なんで開かないんだ!!!!!!

ぎゃあああああっつ!!!!!!
(画面の中では現場ディレクターが五十嵐のチェーンソーで八つ裂きにされて死んでいた……。扉に……五十嵐がチェーンを巻きつけて固定する様もしっかり映っていた……。五十嵐が音声スタッフにチェーンソーを振り上げる。振り上げながら、恐怖に怯えた絶叫を上げている……)
(い、意味が分からない……なんだ、これは……)
(テレビでは明らかに殺人事件がリアルタイム報道されている。五十嵐ナナコが持ち込んだチェーンソーでスタッフを次々に斬り殺しているのだ)
(なのに、誰も五十嵐の犯行を指摘しない。五十嵐が右肩にチェーンソーを担いでいても、「悪霊が右肩に集まっている」と言ってるし、陰陽師を斬り殺しても悪霊のせいにして……。五十嵐が扉をチェーンでがんじがらめにしてる様子もしっかり映し出されていたのに、誰も……誰も……五十嵐のことを……なんで……どうしてだ……)
現場は大混乱に陥っています。
カメラ映像も途切れました。

五十嵐さんたちスタッフの安否が気遣われます。
全てはこの部屋に巣食う白露天河少年の悪霊の仕業なのでしょうか……。
(!?!?)
(まて!)
(おい、待て! 何を言っている……!? あの女が殺してるのを誰も見てないのか?? は? 僕のせい……? いやちょっと待て。そもそも……僕が悪霊? は? なに? え???)
(部屋の外からはスタッフの悲鳴とチェーンソーの稼働音が聞こえてくる中、僕は混乱しながらも、必死に脳みそをフル回転させ、そして、一つの結論に至った。

今までも彼女の特番は何度も見てきたが…………もしかすると、彼女は「心霊スポットをでっち上げる」魔人なのではないか???)
(だとすれば、全て辻褄があう。あの女がどんな凶行に及んでも、全ては心霊現象として認知されてしまうのだ。そして全ては邪霊の仕業として処理されてしまう……!)
現地の映像が回復しました! 五十嵐さん、五十嵐さんっ!!!
い、五十嵐です!

現場は大混乱に陥っています。
スタッフもほとんどが邪霊に殺されました。

私は荒吐先生の意志を継ぎ、この退魔刀にて、必ずこの部屋に巣食う邪霊を成仏させてみせます!
(そういって女がチェーンソーを稼働させた……。ま、まさか……えっ、僕を……斬り殺して……僕を邪霊扱いにして……全ての罪を着せ…… 

ヤバイ!!!!)
(僕は慌てて部屋から逃げ出そうとした。ああなんてことだ。僕はただ、静かにビートルズを聴ければそれでよかったのに……。

部屋の外をそっと覗う……五十嵐がチェーンソーを振りかぶっってどんどん近づいてくる。ダメだ、逃げれない! 隠れなければ……)
(僕は慌ててクローゼットの中へと駆け込んだ!)
五十嵐です。
ついに……悪霊の巣窟と思われる部屋へと来ました。
ここは生前、白露天河の自室であった場所です。
私が、必ずこの退魔刀で白露天河の悪霊を成仏させます(ドルルルルッ! ドルルルルッ!!!)
(せ、生前!? か、勝手に人を殺すな……!!!!)
(しかし、五十嵐が心霊スポットをでっち上げる魔人だとして……なんで僕には今その能力が及んでいないのだろうか? 僕もテレビで五十嵐の番組を見ている時は、どんなハチャメチャな展開でも全て怪奇現象と思っていたのだが。僕の予測が間違っているのか……??)
今から……いよいよ、部屋の中へと入ります!!!
(僕は……クローゼットの隙間から、部屋の様子を伺おうとした。ダメだ、ロクに見えない。だが、見えるものもあった。テレビだ。生中継されている映像がテレビに映り、その映像が僕の部屋の様子を映し出していた)
(そして、僕はそこに映った映像にギョッとして目を見開いた!!!!)
なんだ…………あれは?
(そこにあったのは…………巨大な樹だった。僕の部屋の天井を貫いて……。その下には、干からびた死体があって……。その死体は……ああ! その死体は……!!!)
僕だ。ぼくの……死体だ……
(その瞬間に……。僕は全てを思い出していた。数ヶ月前の、あの日の夜のことを……)
(クラスメイト男子全員を『ノリウェーイの森』により殺害してしまった僕は、ショックを受けて部屋に引きこもっった)
(あんな大惨事を引き起こしてしまったのだ。もう僕の人生はおしまいだ。後は大好きなビートルズでも聴きながら一人ひっそりと生きよう……僕はそう決意したのだった……)
(だが、いかんせん僕も多感な思春期の少年だ。そんな枯れ果てた生活が成り立つはずがなかった。だんだん性的欲求が溜まってきた僕は、最初はオノヨーコの全裸ジャケット写真で手淫を始めたが、やがてそれだけでは足りなくなって、ビートルズの歌詞に含まれる隠語を全て見つけ出すようになり……ある時、それをつい口走ってしまい……)
そうだ……。

僕は、死んだんだ……。


自分の『ノリウェーイの森』で……死んで、いたんだ……。
(両親は僕の死に発狂して飛び出し、この部屋は無人となり、荒れ果てていき……。
僕の……僕の部屋は……本当に、本当の、心霊スポットとなって……)
うわああああっ!

悪霊退散!!!!

悪霊退散ーッ!!!!
(女が……めちゃくちゃに僕の死体を斬り裂いていく……。だが、僕にはもうそんなことはどうでも良くって……。だって。ハハハハ……。僕は、自分が死んだことにすら気付いてなかったんだ……)
(それに気づくと、僕の体が徐々に薄れていった。お迎えが来たということだろう。…………なんてことだ。捏造にまみれていた、五十嵐ナナコの中に、一握りの真実があって……それが僕に……僕が死んだことに……気づかせてくれて……)
この日から、都内某所マンションでの怪奇事件はパタリと消えたという。

cagami

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登場人物紹介

名前:白露天河(しらつゆてんが)

性別:男

特殊能力名:ノリウェーイの森

特殊能力:白露天河の聞こえる範囲内(約半径100m)で下ネタを口にした瞬間に発動。下ネタを発した人間は舌が猛烈な速度で肥大化、天空に伸び続け最終的には大樹となる。身体は大樹の養分となり根を張り朽ち果てる。下ネタは天河が卑猥と認識すれば発動。一般名詞(ちんすこう・マンホールなど)も気分次第では危うい。

設定:白露天河は、いまやクラシック・ロックとも言えるビートルズを愛する、心優しい少年だった。クラスの隅でレコードに耳を傾ける。高校生になってもそんな穏やかな日々を望んでいた。
白露天河が初めて能力を発動したのは、高校に入学してしばらく経った1年生の秋。体育の授業でバレーボールが行なわれている最中だった。おとなしくバレーをしていればいいものを、クラスの中心にいるウェーイ系グループの一人が言い出したある提案「サーブを打つたびにAV女優の名前を言っていく山手線サーブうぇええい!」
ウェーイ系男子が次々とAV女優の名前を言っていく。一人、クラスの下層系男子にもサーブは回ったが、なんとこいつは恥ずかしがりながらも女優の名前を言い、クリアしたのだ。ウェーイ系グループに昇格した瞬間だった。
そして天河にサーブが回ってくる。天河は言えなかった。本当に一人も知らなかったのだ。精一杯の作り笑顔でサーブを打った。ざわざわと流れる空気読めない奴の空気。ウェイ系の誰かの舌打ちが、最後に聞いた雑音だったろうか。
気がつくと天河は森にいた。

相手を倒したい動機:静かにビートルズが聴きたい。

名前:"伝説の怪奇リポーター"五十嵐ナナコ
性別:女

能力名:『真霊企画』
特殊能力:五十嵐が収録で訪れた先は必ず心霊スポットとなる。心霊現象を起こす能力ではなく、その先で生じたあらゆる現象が心霊現象としてスタジオやクルー、視聴者に認知される。

設定:三桁を超える心霊スポットをリポートし、全ての心霊スポットから生還を果たした伝説のリポーター。28歳。彼女の出演する心霊特番では、作り物ではない極めて危険な心霊現象が必ず発生し、しばしばクルーは命を落とす。その過激さと迫真性から視聴率は常に80%を超えるが、その実態は五十嵐の能力により生み出された欺瞞的心霊現象である。現場では五十嵐はしばしばクルーや無関係な人々を殺害しているが、それらも全て心霊現象によるものとして世間には認識されている。
最初は視聴率のため意識的に能力を発動していたが、次第に彼女の中での枷が外れていき、いまや五十嵐自身も正気と狂気が曖昧な状態にある。自身が『真霊企画』を発動していることの自覚も怪しい。

相手を倒したい動機:視聴率のため。凶悪な幽霊を成仏させれば視聴率80%は硬い。

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